専業主婦の妻に支えられる“粘土層”からの批判
また、彼らの中には、妻に同行するということ自体について、周囲から反対されたり、批判されたりした人たちがいた。私も同様の経験をしたが、そうした見方をしたのは、50代以上の男性ばかりだったのを今でも覚えている。家事・育児を一手に担う専業主婦の妻に支えられ、長時間労働をいとわず、仕事に全力投球してきた「粘土層」の人々だ。
今や、共働き世帯が、専業主婦(夫)世帯を圧倒的に上回り、若年層の男性を中心に家事・育児を担おうとするジェンダー平等意識が広がっている状況は、各種データで浮き彫りになっている。ただ、意識こそ醸成されつつあるものの、日本の男性の有償労働時間は各国比較で突出して長く、家事・育児などの無償労働時間は極めて短いままだ。
かくして、ドラマの時代から80年近くが経っても、日本の男女平等、ジェンダー平等は各国と比べて進展していない。月内に発表される毎年恒例のジェンダー・ギャップ指数において、今回も低迷することは間違いないとみられている。
有償・無償労働時間を巡る男女の非対称性を解消し、まずもって夫婦間の平等を実現するには、長年指摘され続けている長時間労働からの脱却が急務だ。男性による時短勤務やフレックス勤務の積極活用など、一段と柔軟な働き方を促進するとともに、優三や駐夫たちのように、男性の多様なキャリア形成を受け入れる土壌が求められるのではないか。
男性にも見てもらいたい
ドラマやCMは、時の世相を映し出す鏡と言われる。男女共同参画、ジェンダー平等が待ち望まれる中、SNSを見る限り、本作品には女性からの共感や支持が多いように見受けられる。私としては、ぜひ男性にも、主人公の女性を描いた他人事としてではなく、己の内面に潜む男性性と男性登場人物を重ね合わせながら、自分事として見てもらえればと思う。
仕事より育児を優先すべきとの言葉に反発した寅子に対し、穂高が戒めながらも達観したかのように発した言葉が、この先「反面教師」となるべく、最後に紹介したい。
「世の中そう簡単には変わらんよ。『雨垂れ石を穿つ』だよ、佐田君。君の犠牲は決して無駄にはならない。人にはその時代時代ごとの天命というものが……。また、君の次の世代が、きっと活躍……」
1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。