「お持ちします」か「持って参ります」か
A:場合によります。その「書類」が「(最終的に)だれのための書類であるのか」によって、言い方に違いが出てきます。
まず「お持ちします」というのは、「お~する」で動詞「持つ」を挟み込んだもので、「話し手=自分」の動作を低める謙譲表現です。意味の近い謙譲表現として、「持って参ります」という言い方もあります。こちらは、「持って来ます」の「来る」の部分を、「参る」に換えたものです。
前者の「お持ちします」は、普通、最終的にそのものが「聞き手=相手」の所有物になったり、「聞き手=相手」の利益につながったりする動作を表します。一方、後者の「持って参ります」には、そのような制限はありません。
たとえば、あなたがえらい人になったと想像してみてください(すでにえらい方は、そのままお読みください)。話をしに来た部下が、「あ、すいません、ぼく手帳を忘れてきちゃいました。いまお持ちしますので、少々お待ちください」と言ってきたら、どういう印象を受けるでしょうか。ここはやはり「持って参りますので」と言うべきだと叱るのではないでしょうか。これは、その部下が「手帳」をあなたにプレゼントするわけではないからです。「いま書類をお持ちします」は、たとえば「聞き手=相手」のための契約書などを持って来る場合であれば、この言い方でなんら問題はありません。しかし、「話し手=自分」の記した部内書類に対して上司の承認のはんこが必要なときなどは、「いま書類を持って参ります」と言うほうが感じがいいと思います。
年代によって回答が違う
ウェブ上でおこなったアンケート〔(部下が、上司に電話で言う)という設定〕では、特に50代以上では「書類を持って参ります」を選ぶ傾向が強いことがわかりました。
え、それぐらいは言われなくても使い分けられる? ああ、そうでしたか。それはそれは。参りました。
学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント新辞典』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『変わる日本語、それでも変わらない日本語』など。2015年からNHKラジオ第一放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。
