親身に伝える「それが心配です」…
部下としては、どうすればいいのか。回避性の人を動かしている最大のモーメント(動因)は、不安である。不安から逃れようとして、新たな負担や決断を回避しているのである。新たな負担や決断を行う方向に上司を動かすためには、さらに大きな不安を搔き立てることで、このままでは危ないという危機感をもたせる必要がある。もっと大きな不安だけが、面倒なこともやるしかないという覚悟を決めさせるのだ。
したがって、「何か手を打たないと、大変な事態も危惧されます」とか、「このままでは責任問題にもなりかねません。それが心配です」という具合に、今すぐ対応しないと将来に大きな面倒が迫っていて、上司の責任問題にもなりかねないということを親身に心配しているというスタンスで伝えるのだ。
将来の危機については、その中身はあいまいにしつつ、「責任」「負担」「面倒なこと」「厄介なこと」「困ったこと」「大変な事態」「争い」「クレーム」「訴訟」「紛争」「感情的な対立」「心配」「危惧」「危険」といった言葉をちりばめ、表情や態度に、そこはかとない不安や危惧を湛えてみせる。わざと沈黙がちになり、とりすがる言葉もないというふうにするのも良いだろう。
「まだ大丈夫というご判断でしょうか?」
ときには、相手に状況判断を求め、答えさせるのも一つだ。その場合も、あまりにストレートに言うと、煙たがられるので、「すぐご決断いただかないと、ちょっと困ったことにならないか……。大丈夫でしょうか?」といった具合に、念を押す形で、相手に問いを投げかけることも一法だろう。
「ちょっと過剰反応しすぎじゃないか」とか「もう少し様子を見よう」とか、時間稼ぎ的な反応が返ってきた場合には、「まだ大丈夫というご判断でしょうか?」と、相手の判断に念を押す。
回避性の人は、念を押されると、言質をとられるのを嫌い、できるだけあいまいな言い方ですり抜けようとする。「別に大丈夫とは言ってないが、慌てて対応する状況ではないということだ」と、どっちつかずの答え方をする。
これ以上追い詰めても嫌がられるだけなので、「わかりました。そう致します」と一旦引き下がる。だが、これだけ楔を打ち込んでおくと、それがじわじわ効いてくる。何しろ回避性の人は、不安が強いので、部下から指摘された危険について、嫌でも考えるようになる。
1960年、香川県生まれ。京都大学医学部卒。岡田クリニック院長、日本心理教育センター顧問。『あなたの中の異常心理』(幻冬舎新書)、『母という病』(ポプラ社)、『愛着障害』『回避性愛着障害』(光文社新書)、『人間アレルギー』(新潮文庫)など著書多数。小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。