高等教育無償化の出生率引き上げ効果は…
最後に、③「学費を含む、育児の家族負担の重さ」だ。
出生率が高い欧米諸国と比べた場合の、日本の育児環境の特徴は、高等教育費の家計負担(学費)が高く、かつ、給付型奨学金も少ないという点だ(出生率の低い韓国も同様)(国立国会図書館「諸外国の⼤学授業料と奨学⾦【第2版】」2019年)。
そこで私は、OECD加盟諸国の時系列データを用いて、「学生一人当たりの高等教育費の政府負担が増える(家計負担が減る)と、出生率がどのくらい増えるのか」を分析した。その結果を日本に当てはめると、仮に、高等教育(大学・短大・専門学校)の全学生に、一律で年間61万円(国立大学相当)の学費を(政府が負担して)免除すると、そのために政府支出は年1.8兆円増えるが、出生率は約0.09上がると試算された。ただしこの分析は、すでに高等教育の無償化が進んでいる欧州諸国のデータが主に基になっているため、日本での無償化の出生率引き上げ効果は、実際はもっと大きくなるかもしれない(内閣官房「第3回こども政策の強化に関する関係府省会議」柴田悠配布資料)。
保育拡充の効果
他方で、日本での「育児の大きな家族負担」は、「高等教育の学費が高い」という経済的負担だけでなく、「保育を自由に利用できない」ことで幼児期の育児を主に親だけで担わなければならないという身体的・心理的負担もある。では、今後もっと自由に保育を利用できるようになれば、出生率はどのくらい上がるだろうか。
2005年から2020年にかけて保育定員を約100万人増やした日本の保育政策は、年間政府支出を約3兆円増やしたが、それにより共働きしやすくなるとともに育児負担も減り、結婚と出産の障壁が下がったと考えられる。実際に、都道府県の時系列データを分析した研究によれば、上記の保育政策により女性の生涯未婚率が約5.5%ポイント下がり、それによって出生率が約0.1上がり、年間出生数が約10万人増えたことが示唆された(宇南山卓「保育所等の整備が出生率に与える影響」2023年)。