日本では女性のみで「育児による幸福感の低下」が起きる
また、国際比較の研究によれば、働き方の柔軟化が進んでいる国のほうが、国民全体の主観的幸福感が高い。そして主観的幸福感が高いほうが、出生率が高い。さらに、働き方の柔軟化が進んでいない国(米国、オーストラリアなど)では「子どもをもつことによる主観的幸福感の低下」(親ペナルティ)が見られるが、働き方の柔軟化が進んでいる国(北欧、フランスなど)ではそのような幸福感低下が見られない(図表2)。
そして日本では、「子どもをもつことによる主観的幸福感の低下」は女性のみで見られる(佐藤一磨「子どもの有無による幸福度の差は2000~2018年に拡大したのか」2023年)。これは、重い育児負担が妻ばかりにのしかかることによって、妻の「夫婦関係満足感」と「消費生活満足感」が下がることが原因だ(佐藤一磨「子どもと幸福度」2021年)。
労基法改正などの「テコ入れ」によって、男性の働き方を柔軟化・効率化し、それによって、「収入低下を伴なわずに」男性の労働時間を減らし、男性がより健康に、より多くの自由時間を持てるようにしなければならないだろう。
じつは未婚女性だけでなく未婚男性においても、2020年代以降は「共働き・共育て」志向が主流になっている(図表1)。男性がより多くの自由時間を持てるようになれば、男性の家事・育児時間が増え、女性にとっても、「共働き・共育て」を実現できる見通しがつきやすくなり、結婚・出産がようやく魅力的になるのではないか。
労働時間カットで出生率を0.2引き上げられる
OECD加盟諸国の時系列データを用いて私が行った分析によれば、「収入低下を伴わずに平均労働時間が年間235時間(週平均約5時間)減ると、出生率が約0.44上昇する」という傾向が示唆された(内閣官房「第3回こども政策の強化に関する関係府省会議」柴田悠配布資料)。一見大きすぎる効果だが、「収入低下を伴わない労働時間の減少」には少なくとも数年以上の時間がかかり、時間がかかればかかるほど、本稿冒頭で述べた「価値観の自由化」が進むため、出生率は低下する。それでも、そのような出生率低下を上回るスピードで、労働時間が減っていけば、0.1~0.2ほどの出生率上昇は見込めるだろう。
なお、「収入低下を伴わない労働時間短縮」を促す政策として、取り組み企業への法人税減税などが考えられるが、そのために政府予算がいくら必要になるかは不明なため、政策の「費用対効果」は残念ながら計算できない。