成長ホルモンと性ホルモンの分泌が影響している

思春期になると、脳内にある視床下部から「GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)」を出すように、下垂体に命令が出されます。すると、下垂体から「ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)」が分泌され、それが男性は精巣、女性は卵巣に作用し、精巣から男性ホルモン、卵巣から女性ホルモンが出されます。ホルモンは血液によって体の各部分に運ばれ、男性として、女性としての二次性徴が現れるようになります。

こうした性的な成熟と同時に、身体的な成長も急速に起こります。

身長が特に伸びる時期である「成長スパート」も、こうした身体的な急成長の一つです。

身長が伸びると体の体積も増加し、これに合わせて心臓も大きくなりますが、この時、血管の成長が心臓の成長に追いつかない時期があります。そのために、血圧のコントロールが適切に行なわれなくなることがあると考えられています。

また、二次性徴期には先述の通り、性ホルモンの分泌が増しますが、性ホルモンは血管の調節にも関与していることが知られています。そのため、ホルモンの変動によって血管の伸縮機能や循環血液量に影響が出ることもあります。

こうした要因が影響することで、二次性徴の時期には血圧に何らかの変化が起こり、起立性調節障害の発症に影響しているとも考えられます。

症状のピークは朝、不登校に陥るケースも少なくない

先にも述べたように、起立性調節障害が原因で不登校になるケースは少なくありません。朝の寝起きが悪いために登校できない。遅刻をして教室に入って行くのが嫌だ。怠け者だと誤解されそう。人目が気になる。調子が悪いことで親に甘えることができる(疾病利得しっぺいりとく)……など、様々な要因が指摘されています。そして、これもすでに述べた通り、周囲の無理解がそれを加速させてしまうこともあります。

今西康次『朝、起きられない病』(光文社新書)
今西康次『朝、起きられない病』(光文社新書)

健康な人であっても、朝は苦手なものです。そのため、起立性調節障害の人が朝に起きられないでいると、「頑張りが足りない」とか「怠けている」と責められてしまうのです。この誤解は、本人にとっては非常につらいものですから、病状の悪化に拍車をかけることさえあります。

そういったことから、起立性調節障害の治療のポイントの一つに、「担任の先生やクラスメートの理解を得る」というのがあるのです。病気の実体を正しく知ってもらい、決してさぼっているのではない、怠けているのではないということを先生や友達に理解してもらうというのは、症状の悪化を防ぐためにも大切なことです。

起立性調節障害がある場合、朝の調子が悪いときに無理やり登校させるのは望ましいことではないと、私は考えています。まずは体力の回復を待ち、周囲の理解を得ながら、通学に負担のない体調に整えることが最優先でしょう。

今西 康次(いまにし・やすつぐ)
小児科医

1961年京都府生まれ。名古屋大学理学部地球科学科卒業。外資系企業にエンジニアを12年間勤務した後、大分医科大学医学部医学科を卒業。中部徳洲会病院、聖路加国際病院小児科に勤め、南部徳洲会病院小児科部長を務めた後、沖縄市に「じねんこどもクリニック」を開業。著書に『ダイエット外来の減量ノート』(筑摩書房)がある。