働き方改革のあまりに遅い歩みが女性を追いつめている
母親たちは父親だけを責めているわけではない。父親自身が家庭の壁になってしまう背景に、父親たちの当事者意識の欠落だけではなく、働き方の問題もあることはよくわかっている。
まず、近年の日本の働き方について見ておこう。2015年には若者も高齢者も女性も男性も活躍できる「一億総活躍社会」というキャッチフレーズが生まれ、2016年に「ニッポン一億総活躍プラン」がまとめられる際には、長時間労働の是正が検討すべき課題として取り上げられている。
2017年には「働き方改革実行計画」が策定されたが、そこには長時間労働は「男性の家庭参加を阻む原因」とはっきりと書かれている。政府の政策でも、長時間労働は問題として認識されているのだ。OECD14カ国の比較でわかるのは、日本の男性は有償労働が圧倒的に長く、女性は圧倒的に無償労働が長い。「男は仕事、女は家庭」という性別分業が徹底した社会であるということだ。
働き方改革が男女ともに家事育児も担える方向に進んでいるとしても、あまりにその歩みは遅い。2021年の調査をまとめた「令和3年社会生活基本調査」を見てみよう。6歳未満の子どもを育てている夫婦の場合、夫と妻の家事関連時間を見ると、夫の家事育児時間は1時間54分、妻は7時間28分となっている。5年前の2016年の調査と比べると夫は31分の増加、妻は6分の減少となっている(週全体平均。共働き世帯も専業主婦世帯も合わせた平均である)。まだ男女差が大きいままなのだ。
こども家庭庁審議会委員。専門は社会保障・保育政策。早稲田大学教育学部卒業。松下政経塾をへてノースウエスタン大学 MBA取得。慶應義塾大学大学院商学博士。横浜市副市長等をへて現職.主な著作に『保育園は、いま』(岩波書店)、『保育園問題』(中公新書)、『大卒無業女性の憂鬱』(新泉社)、『無子高齢化』(岩波書店)など。
専門は公共経済学・応用ミクロ計量分析。一橋大学経済学部卒業、同大学院社会学修士、ウプサラ大学経済学博士。国立社会保障・人口問題研究所をへて現職。医療・介護・子育て支援・困窮者支援などの社会保障制度や地方交付税や国庫補助金などの政府間補助金制度が対象者に与える影響を研究。