「私のこと大切じゃないの?」と泣きじゃくる娘からの電話

発足当初はうまくいかないだろうと思われていたEC事業部も、今では「この部署で働きたいです!」と若手社員に言われるほど、社内でのプレゼンスも確実に大きくなった。

それでも事業部を立ち上げた当初は、部下にECに詳しい人材がいなかったため、佐藤さんは一人で仕事を抱え込み、多忙を極めた。ワークライフバランスはそっちのけで、プライベートは優先下位で小学生の娘との時間はなかなか取れなかった。そもそも転職したのは、海外との忙しいやりとりから離れるためではなかったか……。

「その頃娘が仲良くしていたお友だちのお母さんが専業主婦だったので、娘はなぜ自分の母は働いてばかりいるのか疑問だったようです。毎日私の携帯に電話をかけてきて『私のこと大切じゃないの?』と泣きながら、家にいてほしいと訴えていました。でも、正直それどころじゃなかった。あの電話の声を思い出すと今でも心が苦しくなります」

若手社員から「『EC事業部で働きたい』と言われるのがとてもうれしい」と佐藤さん。
撮影=プレジデント ウーマン編集部
若手社員から「『EC事業部で働きたい』と言われるのがとてもうれしい」と佐藤さん。

ワークもライフもゴチャ混ぜのワーカホリック

母の不在を嘆き、泣きながら電話をかけてきた娘は今や高校生。母と同様にマーケティングの世界に興味を覚え、その勉強ができるような大学をめざしているそうだ。佐藤さんはワークもライフもゴチャ混ぜ、自他共に認めるワーカホリックだが、「あなたをちゃんと大切に思っているよ」という気持ちを常に表していた。そのせいか、娘は道を踏み外すこともなく育ってくれた。

現在は、夫と娘と毎晩必ず夕食を共にし、その後、録りためたドラマを一緒に見て感想を言い合う、といった和やかな時間をやっと手にする。

しかしEC事業はやっと軌道に乗ったばかり。話題を呼んだヒアルモイストも美容マニアなどの玄人好みのアイテムなので、日清食品が望む美容ドリンクのカテゴリーNo.1までにはたどり着いていない。それでも「これからはサブスクのサービスも拡大していきたい」と、佐藤さんはまだまだ事業の伸びしろを狙い続ける。

東野 りか
フリーランスライター・エディター

ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。