女児を出産する夢

ある夜、私は夢を見た。

女児を出産する夢だった。

なぜか私は出産直後で、知らない大きな病院でパジャマを着たまま女の子を抱いていて、それなのにあわてて仕事に行こうとしていた。

女の子はすでに四、五歳くらいの大きさで、頭の良さそうな額をしていて、私にも夫にも似ておらず、大きな目でじっと私を見つめていた。周りにはなぜか仕事相手やこれまで関わりのあった編集者が並んでいて、口々に「おつかれさま、おめでとう」と言いながら拍手をしていた。

その状況で、私は、あちゃー、と思っていた。あちゃー、女の子だったか、と。

女の子は仕事に行こうとしている私を、引き止めるでも送り出すでもなく、ただただじーっと、その大きな目で見続けていた。

目が覚めて、なんて夢を見てしまったのだ、と思った。カレンダーをふと見ると、明日がちょうど20週目、健診で性別が言い渡される日だった。

性別を聞いて感じた二重の喜び

胸騒ぎがしてたまらず、産院に電話をし「本来は明日の予定だけど、今日、健診に行っていいか」と聞いた。良いというので急いで病院に行った。

先生はエコーを見て

「まぁ、まず間違いなく女の子でしょうね」と言った。

「ペニスが見えないので、間違いないです」

その時感じたことについて、私は今でも説明がつかない。

聞いた瞬間、私はほろほろと涙をこぼしていた。

肩甲骨のあたりから、甘い、許しにも似た痺れと弛緩が体じゅうに溢れ出て、筋肉を、骨を、神経をすべて溶かすような、あたたかな喜びが全身に満ちた。安堵と同時にどきどきと心臓が高なった。

この世の中に、私が! 女の子を生み出すのだ、生み出せるのだ!

きっと素敵な女の子に違いない。そう、スタッカートのように強い確信が、体じゅうに鳴り響いた。絶対しあわせになるよ。だって、女の子だもん。

なぜこんなふうに感じるのかまるでわからなかった。少し前まで、女の子を産むことにあれだけ否定的な気持ちになっていたのに。

今や私は二重に喜びを感じていた。まずは、お腹の子が女の子であることに。そして、それを私が喜べているということに。

これまでドラマなどの中で、医者からお腹の子の性別を告げられて登場人物が喜びの涙を流すシーンを目にするたびに、「なぜ性別がわかったくらいで泣くのだ」と思っていたが、今の私にはよくわかった。

超音波検査
写真=iStock.com/7postman
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「俺もそんな気がしてた」

飛び跳ねそうな勢いで産院を出て、すぐに夫に告げた。

夫は「俺もそんな気がしてた」と適当なことを言った。

子の名前に関しては、妊娠の比較的早い段階からすでに夫と私で決めていた。

男の子っぽくも女の子っぽくもない名前なので、これまでは「◯くん」と呼んだり、「◯ちゃん」と呼んだり、さまざまだった。

夫がその名前に「ちゃん」をつけて「◯ちゃんだな」とLINEで送ってきたので「◯ちゃん」と口に出して言ってみた。

◯ちゃんは、これまでと同じで外の世界のことなど我、意に関せずといった感じでお腹をぽんぽん蹴りまくっていたが、それまで宙に浮いていた名前が、急におさまるべきところに着地したような感覚があった。