あらゆるものが無常であり絶対ではない

実際、精神的に疲れて調子が悪くなっている人ほど、何かに捉われ、執着しています。世の中はこうでなきゃいけない。人間はかくあるべし。もちろん生きていく上で必要なこだわりでもありますが、同時にそれが絶対的なものではないということを知っておく。すると気持ちが楽になるし、自由になります。

アインシュタインは物理法則としてそれまで絶対的だと考えられていた時間の流れも、実は相対的だということを発見しました。光の速さに近い速度で移動すると、止まっているときよりも時間が長くなるのです。

ブッダはすでに約2500年前に、この世のあらゆるものが無常であり絶対ではないという、この世の理の「相対性理論」を打ち立てた偉人と言えるでしょう。

ちなみに、日本人はなんでも感情的に捉える傾向が強いので、無常観を無常「感」に置き換えて解釈しがちです。この世は移ろいゆく、はかなくて虚しいものだと詠嘆する。

ですが本来は無常「観」であり、永遠不変のものは一つとしてないという認識論なのです。その意味でブッダの無常観とは、世の中の真理を見極める哲学や科学に近いものだと言えます。

愚者と交わらず賢者と交わる

諸法無我とは、あらゆるものは関係性で成り立っているということです。

自分という存在も他者との関係性で初めて成り立つ。その意味でブッダが口を酸っぱくして言っているのが、愚者と交わらず賢者と交われということ。

自分を正しく保ち、心安らかに楽しく生きるためには、やはり自分よりも賢い人と交わりなさいとブッダは言っています。

ある時、ブッダを訪ねた神が「多くの神々と人間とは、幸福を望み、幸せを思っています。最上の幸福を説いてください」と聞きます。

ブッダの答えはこうです。

諸々の愚者に親しまないで、諸々の賢者に親しみ、尊敬すべき人々を尊敬すること、――これがこよなき幸せである。(『ブッダのことば』259)

愚者というとなんだか言葉はきついように感じますが、たとえば人の悪口を言ったり、やたらと批判的、悲観的なことばかり言う人がいます。こういう人とお酒を飲んだりしていると、なんだかこちらもネガティブな気分になってしまいます。そういう人からは離れなさいと。

反対に賢者は、マイナスの言葉は使いません。知恵ある人とは少し話すだけでも楽しいものです。単に知識が豊富ということではなく、機知と機転に富んでいて、前向きです。一緒にいるだけでこちらが目を開かれ、心洗われる感じがする。エネルギーというか、良いオーラをもらうことができるのです。

そういう賢者と親しくなり交流ができれば、人生の宝となるでしょう。候補者を探して、親しむようにしてください。と言っても付きまとうのではなく、たまにでもいいので話ができる関係を作るということです。

集まって読書を楽しむ4人の高齢者
写真=iStock.com/NicolasMcComber
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