検索エンジンやウィキペディアを使う価値

思えば、インターネットや検索エンジンが普及したころにも、これを勉強に用いることの是非が議論の的になっていました。

たとえば大学のレポート課題で、「ウィキペディア」を使って調べることを学生に許すかどうか。ウェブ上でどこかに掲載されている情報を、表現を変えずにそのまま流用するいわゆる「コピペ」は論外としても、ネット検索を建設的に学びに活かせる方法はあるのか。

検索エンジンやウィキペディアが提示している「答え」や「キーワード」を自分なりに精査し、考察をまとめるという学びのかたちは大いにありうると思います。

それと同様、「まずジェネレーティブAIに『答え』を出させることから始まる学び」もあっていいのではないでしょうか。

こちらの問いに対して、ジェネレーティブAIが、ある答えを示してきた。その答えは本当だろうかとキーワードを検索してみる、文献を調べて裏を取る、その答えを元に仮説を立てて検証する、あるいは、その答えを逆から考えてみる……などを試みた結果、「よくわからない」「引き続き調べたい」でもいいのです。

人とAIロボットの指先が触れるイメージ
写真=iStock.com/David Gyung
※写真はイメージです

「自分なりの答え」を探すためのパートナー

現代社会は(特に日本社会は、かもしれませんが)、何事も「正解ありき」に偏っていると思います。正解にいち早くたどり着くことだけに自分を最適化することばかりが重んじられ、それを他の人よりも上手にできる人こそが成功すると信じられているところがある。

伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)
伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)

しかし世の中の大半の問題には、実は「不変・不動の正解」がありません。

だとしたら、子どもであろうと大人であろうと、絶対不変の正解がないなかで「自分なりの答え」を探すために、さまようという経験も「生きる力」を育むうえでは必要でしょう。

この広大な社会の情報の森をさまよい、探検しながら、自分なりに考えていく。答えを見つけるためではなく、探索そのものを続けるためのパートナーとしても、「とりあえずの答え」を示すことで「学びのきっかけ」をつくってくれるジェネレーティブAIは、価値あるツールだと思います。

POINT
●各々が伸ばしたい領域を学ぶ時間を増やすため、苦手、あるいは不要と考える領域はAIの助けを借りて時間短縮・効率化するという考え方もある。これは、個人の選択であると同時に、社会(学校教育)の選択でもある。
●「絶対的な解」の存在しないなかで、「自分なりの答え」を探す力は、生きる力を身につけるうえで重要。ジェネレーティブAIはそうした独学の素晴らしい「相棒」になる。
●AIに答え(と思しき選択肢)を出させ、その内容を検証する、という主体的・能動的な学びは有効なアプローチの1つである。
伊藤 穰一(いとう・じょういち)
デジタルガレージ取締役

デジタルガレージ取締役・共同創業者・チーフアーキテクト、千葉工業大学変革センター所長。デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計などさまざまな課題解決に向けて活動中。2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、2015年のデジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。また、非営利団体クリエイティブコモンズの取締役会長兼最高経営責任者も務めた。ニューヨーク・タイムズ社、ソニー株式会社、Mozilla財団、OSI(The Open Source Initiative)、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。2016年から2019年までは、金融庁参与を務める。