「合理的」である必要がなくなる

ジェネレーティブAIは、とんでもない間違いをおかすことがありますが、膨大なデータを参照して整合的な答えを導き出すという、きわめて合理的な存在です。人間が第一にジェネレーティブAIに求めるのも、そうした合理性です。

伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)
伊藤穰一『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)

そして合理性という点で優れているAIが浸透すればするほど、人間が「合理的であること」の重要性は、どんどん薄れていくでしょう。

合理性は新しいテクノロジーが担保してくれるなかで、「どれだけ整合性の高い優等生的な答えを出せるか」よりも、「どれほどおもしろいか、風変わりなことができるか」――自分という存在由来の「ひねり」、これまでになかった新たな発想を加えることができるかどうかで、人間が評価される時代になっていくでしょう。

いいかえれば、以前にも増して、平均点を取ることよりも、尖った個性を発揮することのほうが高く評価される時代が訪れているのです。そのように考えると、「まず平均的であること」を重んじ、それぞれの個性の発揮は後回しにされがちなまま、ここまで来てしまった日本社会は、いよいよ、待ったなしの変革の時代を迎えようとしているといえるでしょう。

POINT
●AI時代の仕事は、既存の選択肢をコラージュ的に組み合わせてつくりだす、DJ的なものになっていく。
●ジェネレーティブAIが提示する情報は正確性に欠ける部分もあり、それらの内容を精査するためには、人間側に、その分野についての専門知識が必要とされる。
●データに基づき「合理的」な選択肢を提示するジェネレーティブAIの性能が上がるほど、「おもしろいこと」「風変わりなこと」ができる人の重要度が高まっていく。
伊藤 穰一(いとう・じょういち)
デジタルガレージ取締役

デジタルガレージ取締役・共同創業者・チーフアーキテクト、千葉工業大学変革センター所長。デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計などさまざまな課題解決に向けて活動中。2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、2015年のデジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。また、非営利団体クリエイティブコモンズの取締役会長兼最高経営責任者も務めた。ニューヨーク・タイムズ社、ソニー株式会社、Mozilla財団、OSI(The Open Source Initiative)、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。2016年から2019年までは、金融庁参与を務める。