これからの上司像や働き方を考える

男性の育休や育児参加は男性の意識に変容を起こすもの。そして、それこそが企業のダイバーシティ推進に大きな効果をもたらすと言えそうです。では会社側は、この変容を後押しするために何を重視すべきなのでしょうか。

最大のポイントは「有能な上司」。ここで言う有能な上司とは、育児中の人や単身者などさまざまな部下をフラットな視線で見て、円滑に業務が遂行できるように全体を管理できる人のこと。今後は、部下の多様な働き方に柔軟に対応できる人こそが有能な上司であり、ダイバーシティ経営にはこうした人材の登用が必須だと言います。

最後に、田中先生は「今後、企業は1日8時間・週40時間労働を“最低限”ではなく“普通”と考え、育休で離脱する人も含めて誰もが働き続けやすい組織をめざすべき」と語り、次のように講演を締めくくりました。

田中先生、木下編集長、参加者によるグループディスカッションの様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

「そして個人は、職場・地域・家庭・個人内それぞれに居場所をつくろうという意識を持ってほしいと思います。これまではなかった『男性育休』という事態に皆で対応することが、組織を変え、ひいてはそこで働く個人の生き方も変えていくだろうと期待しています」

続いて質疑応答が行われ、その後、田中先生、木下編集長、参加者によるグループディスカッションを実施。人事・ダイバーシティ担当者が感じている課題の解決方法などを皆で考えました。

男性育休については、各社とも取得は進んでいるものの、日数は数日〜2週間程度と短いのが現状のよう。当の男性社員からは「休むことに抵抗感がある」「取得によって評価が下がるのでは」「取得中は給与が下がる」といった声が上がっているそうです。

これに対しては、「男性が育休を長期取得しても元のポジションに復帰できるよう支援し、そうした事例を社員にしっかり見せていく」といった意見が出たほか、給与が下がった分をどう補填するかという点についても話し合われました。

また公私混同については、在宅勤務中の家事育児禁止など厳しいルールを設けている企業もあるとのこと。しかし、「あまりに厳しくすると逆に業務効率が落ちる場合もある」との意見も。今後は育児だけでなく、介護などとの両立を望む社員も増えていくと予想されることから、一律にルール化するよりも、個々のケースに合わせて柔軟に運用できる仕組みづくりが求められそうです。

今回の研究会は、男性育休の意義やあり方について多くのヒントが得られる機会となりました。今後も人事・ダイバーシティの会では、日本の組織や人を変えるべく、ダイバーシティや次世代人材育成にまつわるさまざまな課題を取り上げていくとのことです。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。