旧来的な家族観はもう通用しない
なぜ取り組みが進まないのか、何が障壁になっているのか――。田中先生は「旧来的な家族観が障壁になっている」と語り、そうした家族観の具体例として次の3つを挙げました。
【旧来的な家族観とは】
①誰もが結婚するという前提で
②男性は経済的な大黒柱となり
③女性は家事・育児、あるいは介護といったケア役割を果たす
「現状では、男性育休が取得しにくい企業は少なくありません。背景には『男性は仕事、女性は家庭』という、上記の3つを前提とした考え方があります。しかし、今はもう、この前提は成り立たなくなっているのです」
まず①については、「今は単身者がかなり多くなっている」と田中先生。2020年の50歳時の未婚率は男性28.3%、女性17.8%で、今や50代男性のおよそ3人に1人はシングル。ここから、誰もが結婚するという前提はすでに通用しなくなっていることがわかります。
②については、バブル崩壊やリーマンショック以降、男性の給与は下がり続けており、旧来の「男性稼ぎ手モデル」が崩れつつあると解説。父親が大黒柱となり、その稼ぎで家族全員が食べていける時代は終わりつつあると言います。
③は女性が結婚や妊娠、出産を機に仕事を辞めていた時代の話であり、近年はこれが急激に変化。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(2022年)によると、第1子出産後も就業を継続する女性は2010年代から劇的に増え、現在では50%強にのぼっているそうです。
「私たちはまず、家族観のこうした変化を認識する必要があります。そして結婚や妊娠、出産を経て働き続ける女性が増えた今、企業はそうした変化への対応策を、働く女性をパートナーに持つ男性は家庭での役割を、あらためて考えていくことが大事です」
時代の変化によって、男性の育休取得率は1996年にわずか0.1%だったのが2021年には全国平均で約14%にまで増加。この比率は東京都内に限ると約24%で、取得者は珍しい存在ではなくなってきました。では男性育休は、ダイバーシティ経営にどんな影響をおよぼすのでしょうか。