現在の子育て支援の脆弱さ
子どもが高校生になると、さらに差が出ます。高校無償化の支援額は段階的で、片働きなら年収約590万円以下の時、共働きなら年収約660万円以下の時、年間39万6000円までの支援額が国から出ます。しかし、片働きなら年収約910万円を超えた場合、共働きなら年収約1030万円を越えた場合、支援額は0円です。
文部科学省「子供の学習費調査」(令和3年度)によれば、高校3年間の学習費総額は公立で約154万円、私立で約316万円となっています。私立に通わせる場合、支援額を満額もらっても、約200万円は負担しないといけない計算です。もちろん、子どもにかかる費用はこれだけではありません。食費、被服費など生活費がかかってきます。
年収が高ければ、家計に余裕があるといえる状況ではないのは、先ほどの額面と手取りの差を見てご理解いただけたと思います。
なお、高校生の子供を扶養していると「扶養控除」が適用できます。所得税では38万円が課税所得から所得控除でき、住民税では33万円が税所得から所得控除できます。
それを反映して計算したのが以下の通りです。高校無償化の支援額も記載しました。
扶養控除によって、多少手取りが増えてはいますが、年収が上がれば税負担が増えることは変わらず、所得制限があるのはおかしいといえます。
以上が世帯収入の手取り事情、子育て支援状況です。いくら稼いでいても、子どもを複数人育てることに躊躇することになるのは一目瞭然でしょう。岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」が、児童手当の所得制限撤廃くらいではまさに焼け石に水なのです。
話題の「N分N乗方式」を取り入れると?
高年収世帯の負担が大きいのは、累進課税の影響です。そこで、課税ベースを「個人」でなく「世帯」とし、世帯人数が多いほど低い税率が適用される税制「N分N乗方式」が少子化対策の議論の中で取り上げられるようになりました。
これは、フランスで1946年から導入されている税制で、子どもの数が多いほどより低い税率が適用され、税額も少なくなる仕組みです。
フランスの場合、大人を1、子どもを0.5(第3子以降は1)として世帯の人数を計算します。夫婦と子ども1人の3人家族の場合、所得の合計額を2.5で割った額が課税対象になり、各個人の課税所得に適用される所得税率より低い税率が適用されやすくなります。