毎月15万円の出費

ただし、大変なのは介護にかかる膨大な費用だ。新幹線代だけで、1カ月10万円。母親の好きな果物代、おかずを作る食料品代などで毎回3000円、向こうで北沢さんが生活する費用、そして実家の光熱費も今は北沢さんが払っている。

「だいたい、介護にかかる費用が月に13万。光熱費を入れたら、月に15万ぐらいです。母親の国民年金が月6万ちょっとですが、施設の費用が月に15万かかるんです。食事と宿泊費って介護保険から出ないので、全部、自費になるんです。何とかならないかと役所に相談したら、小規模多機能は対象外だと言われ、もう、本当にもたないというか。よく主人が黙っているなと思いますね。私の方が稼いでいるといえばそうなんですが」

電卓を使用して家計簿をつける女性の手元
写真=iStock.com/kazuma seki
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宿泊も食事も、人が生きていくには必要なことだ。ここになぜ、重い負担が個人に強いられるのか、国の介護行政に大きな疑問を抱かざるを得ないが、支援も補助も望めない以上、ではどうしていくか。今、北沢さんは「メルカリ」と「ポイ活」に一生懸命取り組み、そこで細々と稼いでいると笑う。

「ほんと冗談ではなく、そっちでなんとか小銭を稼いでいかないと。東京の自宅は賃貸なので、更新料も払わないといけないですし」

介護で動けるのは自分だけ、悔いを残したくない

夫婦だけなら多少は余裕のある生活ができる収入があるにもかかわらず、北沢さんは今、八方塞がりの状況だと断言する。

「いつ終わるかもわからない介護と、その費用負担で、夫婦の老後の見通しも立たない。まさか、こんなになるとは思っていなかったし、わからないですね、そこは」

そうであっても、ここで大阪へ行く回数を減らすわけにはいかない。大阪の自宅売却も、母親が生きている間に行うのは忍びない。弟がいるが重病で障害を負い、思うように動けない。介護で動けるのは自分しかいない以上、悔いだけは残したくないと思う。

まさに八方塞がりと言いながら、タダで転ばないのが北沢さんだ。

「新幹線は、1カ月前に決めた席を取ります。車内環境を自分用にそろえないと嫌なので、決めた席でタブレットとルーターと携帯を充電できるようにして、好きな音楽を聴いて、電子書籍で読みたい本を読んで、車内は完全に自分の時間にしています。自宅にいる時は、できるだけ好きなことに没頭したいと思いますね。音楽と将棋観戦です。だから、退屈している時間なんてないですね」

どんな環境であっても腐らず、流されず、自分を手放さず、自分を大事に育てていく。それが北沢さんの倒れない、しなやかな強さの根幹にあるものなのだろうか。