どこかで抜かないと自分が壊れてしまう

もちろん、介護を巡る小さな“ヒビ”は知らないうちに堆積する。「リンゴ食べる」と言うから皮をむいて持って行くと、「こんなん、今、いらん」と突き返された時。「あんたが食べたいだけちゃうか?」と、自分のせいにされた時。

リンゴをむく手元
写真=iStock.com/SonjaBK
※写真はイメージです

認知症ゆえと思えども、決めつけの強い語気が胸に突き刺さる。それはどこかで抜かないと、きっと自分が壊れてしまう。

だから、取材に応じたと北沢さん。

「誰か、話を聞いてくれる方に会いたかったんだと思います。悔いがないようにしたいだけで、ここまで来ちゃったんですよね」

八方塞がりだと北沢さんは状況を冷静に語ったが、実はこれから迎える60代、70代に、大きな目標を持っていた。

後編に続く)

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。