前代未聞の目標数字
2000年代といえば、デジタルカメラや二つ折りケータイ(いわゆるガラケー)の全盛期。当時、芸術的とも言える優れた色やデザイン、質感の商品が次々と登場し、消費者の心をくすぐっていました。
そこで、まずは「どんな色やデザインの商品が欲しいですか?」といった調査と並行して、デジカメやケータイも含めた持ち物やファッションに関わる、徹底した調査に入ったといいます。
「この頃のトレンドは、マテリアルなカラーとメタリック(シャイニー)な質感。デジカメやケータイを、アクセサリー感覚で選ぶ消費者が多い印象でした」と話すのは、同デザイン室長の堀本光則さん。
人々の嗜好やライフスタイルは、多様化している。半面、製造コストや売り場の陳列などを考えると、10色、20色と数多くのラインナップをそろえるわけにはいかない。
そこで「適切なマグの容量、太さ、高さのバランスを追究するとともに、「好き嫌い」を感じさせないような色、質感への絞り込みが必要でした」と堀本さん。
そこまでこだわったのは、「1モデルだけで国内外売上100万本」という数字が、象印がそれまでに達成したことがない、ハイレベルな目標だったからです。
こだわりの色と質感を実現するまで
望まれるマグのサイズは、入れて持ち運ぶバッグのトレンドによっても変わる。きめ細かな調査は多岐にわたり、苦難の末、色とサイズを12、3種へと絞り込んだとのこと。
さらに20~50代の男女にアンケート調査を重ね、製造する色は、ロゼ(ピンク系)、レッド、シルバー、ブラックの4色に決定。それぞれ2種ずつ容量サイズ(0.36L、0.48L)を設け、最終的に計8種のステンレスマグ(SM-JA型)に決まりました。
ところが、「ここからがまた、苦労の連続でした」と堀本さん。
開発段階であれほどこだわった色と質感を、いかに商品として量産できるか。担当者自身がタイの工場に出向き、イメージ通りの商品に仕上がるまで、何度も何度もやり直しを重ねたといいます。
マグは通常、ベースコートとトップコートを2回に分けて着色する。ただ、吹き付けるインクの量や勢い、色やアルミ粒子の配合、さらにそのあと焼き付ける温度によっても、微妙に色が変わるとのこと。
「塗装の環境や塗料の調合でも発色が違ってくるため、当時の担当者は一つひとつ、現地で塗装の方法を工夫してもらい、安定させたと聞いています」(堀本さん)