「砲撃をしているのはウクライナ」と伝えるロシア側のメディア

この侵略行為が始まった当初は、なんとかロシア国内に情報を広めようとSNSアカウントを開設したり翻訳した西側の情報を流してみたが、まったく反応はなかった。今思うとプロパガンダは2014年から始まっていたことを見落としていた。東部地域のロシア系住民がウクライナ政府から迫害され、ひどい目に遭っているんだというプロパガンダ映画は、毎年のようにロシア国内では公開されていたし、西側諸国のロシアいじめが盛んに行われているんだということを何度も繰り返しメディアで煽っていた。

この侵攻が始まったときには既に西側メディアにアクセスできたとしても「また西側がフェイクを流してる」と思われるようなプロパガンダ漬けのロシア人が多く、僕の努力は意味があったのか疑問だ。西側の人間が見たときに「ロシア人はひどい! こんなの人間のすることじゃない!」と道徳心が傷つき憤るのと同じで、それまでの8年間多くのプーチン支持者は「ウクライナ政府はひどい! こんなの人間のすることじゃない!」と憤っていたのだ。

テレビのニュースを見ているとロシアが侵攻し民間施設に向けて砲撃、民間人の痛ましい状況ばかりが流れる。一方、ロシアのメディアではその逆で砲撃をしているのはウクライナだと言われるし、ロシア兵を歓迎する現地の人たちの映像ばかりが流れる。西側の国にいるとなんでロシアの国民の多くはこんなことを容認しているんだと思うが、ロシア側の人と話すとまったく同じように何で西側の国民はこんなことを容認しているのかと言われるわけだ。過去の戦争についていろんな話を聞くたびに「なぜそうなるんだ?」という疑問があったが、きっと当時も今と似たような状況だったのだろうと今ならわかる。戦争が一度始まってしまえばあらゆることが混沌としてわけのわからない状況になるのだと思う。

プーチン政権を一刻も早く終わりにしてほしい

僕はロシア生まれでロシア国籍ということから、ウクライナ侵攻が始まった当初は、取材の嵐だった。朝起きてテレ朝に行って、昼にTBS、夕方は日テレ……そんな日が続いた。どんなメディアにも何度も言っているのだが、僕はウクライナ侵攻について、ロシアにどんな理由があろうが大反対だし、侵略行為は許せない。ましてや、ウクライナで多くの人たちが死んでいる映像を見れば、権力がプーチンに一極集中された状態を一刻も早く終わりにしてほしい。

小原ブラス『めんどくさいロシア人から日本人へ』(扶桑社)
小原ブラス『めんどくさいロシア人から日本人へ』(扶桑社)

これまではロシアに行くこともあったし、ロシアの祖父母に迷惑がかかるといけないから、なるべくプーチンに関する発言はせず、中立な立場でいたほうがいいのだろうと思っていた。しかし、祖父母が相次いで亡くなったことにより、僕はロシアに行く動機がなくなったし、僕のせいで圧力をかけられる人はいないだろうと心のかせが軽くなり、堂々とプーチン批判をできるようになった。

ロシアに住むロシア人が政権批判をしたら逮捕される可能性が高いことは広く知られている。それに加えて、ウクライナ侵攻後にロシアでは法律が変わり、海外在住のロシア人が母国を批判するのも法律違反になった。つまり、僕が日本でプーチンを批判するのも、ロシアでは法律違反ということになる。いくら日本での暮らしが長くても僕はロシア国籍だから、僕が日本以外の国に行くときのパスポートを失効したり、僕が罪を犯すなどして日本での永住許可が取り消されたりすることがあれば、僕はロシアに行かなければならない。そうしたときに、どういう対処をされるかはわからない。

小原 ブラス(こばら・ぶらす)
タレント、コラムニスト

1992年、ロシア連邦ハバロフスク市生まれ。兵庫県姫路市で育つ。関西弁を話すめんどくさいロシア人として、「ポップUP!」「5時に夢中!」など、TV番組で活躍中。「外国人の子供たちの就学を支援する会」理事長などの一面もある。著書に『めんどくさいロシア人から日本人へ』(扶桑社)がある。