侵攻を正当化するプーチンのプロパガンダに腹が立つ

報道を見ていると、侵攻の理由はどんどん変わっていった。最初は「NATOの東方拡大が」と言っていたのに、「東部地域でロシア系住民が迫害されているから」と言ってみたり、「ナチ化しているから」と言ってみたり……。僕の思想では、別にウクライナがNATOに入ろうがロシアの安全保障に影響はないと考えている。ウクライナよりもモスクワに近いバルト三国はすでにNATO入りしているし、何よりロシアは核を保持していて抑止力が働いている国だ。NATO諸国が進んでロシアへ侵攻する理由がない。

ウクライナ政府がクリミア問題を武力によって解決すると明記した安全保障文書を採択しているので、ウクライナがNATO加盟国になればNATOの条約5条(集団防衛)に従ってNATO諸国はロシアを攻撃しなければならなくなるということをプーチンは盛んに唱えていたが、そもそもウクライナの合意なしにクリミアを独立させロシアに編入したのは誰だという話だ。

多くのロシア人はクリミアの独立はクリミアに住む人々に支持されていると思っているし、ウクライナに住むロシア系住民が迫害されているという情報に怒りの感情を持っているが、実際に当時のクリミアの人々や現在のウクライナ東部地域の人々の気持ちや、そんな迫害が実際にあったかどうかは僕にはわからない。プロパガンダ合戦が繰り広げられている今、判断すべきことでもないと思う。

少なくとも、いかなる理由も他国への侵攻を正当化することはできないと僕は思っている。非人道的なことが行われているからという理由で侵攻することを良しとするのであれば、他国へ侵攻する理由はいくらでもつくれる。何でもありとなるだろう。プーチンにも腹が立つし、ロシア国民がプロパガンダに騙されている状況にも腹が立っている。

「デマばかり流れてくるからスマホは見るな」

僕はロシアに住んでいる普通の人たちを知っているから、なぜこの状況をロシアの人たちは不思議だと思わないのだろうと、もどかしく思っている。僕のロシアの知り合いには若い世代が多い。彼らはVPN(仮想プライベートネットワーク)につないで、Twitterや西側のメディアをチェックしているので、ロシアの国営テレビが放送する情報を鵜呑みにはしていない。高齢の人でも反プーチンでこの軍事侵攻に反対の人もいると聞く。

だが、大人のなかには子どもに対して「デマばかり流れてくるから、スマホは見るな」と言う人もいるし、西側の情報を得られないロシア国民がいるのも事実だ。知り合いをいくら説得しても、僕に対して「お前が西側のメディアに洗脳されているんだ」と言う人もいるし、僕を“裏切り者”だと言う人もいる。結局誰も自分が悪者になりたくない。西側の人は西側メディアを信じるし、ロシアの人はロシアメディアを盲信したほうが自己肯定感が満たされる。