「周り」も含めて自分である

「周り」とは、世の中全体ということでしょうか?

いいえ、違います。人生の前半ならそれでもいいかもしれませんが、後半生においては、自分自身を映す鏡としては輪郭が定まらない気がします。あまりに漠としていて、結局、捉えどころがないからです。

では、「周り」とは実際どのようなものでしょうか。

ヒントとして、アメリカの哲学者マイケル・サンデル(1953~)が説いている次のような考え方があります。私なりにまとめてみましたので、まずは読んでみてください。

A国からB国に帰化した人がいました。不幸なことにそのA国とB国が戦争になって、その人はB国の兵士として戦争に参加せざるを得なくなりました。そして、A国へ爆撃に向かうことになるのです。なんとその標的は、自分が生まれ育った街でした。
自分が今所属するB国のためにと、戸惑いなく爆撃する人はおそらくいないでしょう。その街は自分の「オリジン」であり、自分の物語の一部。いわば自分自身を形づくってきた人生と不可分な要素だからです。

「周り」も含めて自分。なんとなく実感を持てる気がしませんか。

自分自身と身近なコミュニティーは、切っても切れない関係にある。身近なコミュニティーの中で自分のストーリーは創られ、そのコミュニティーとの関わりによって、自分とは何かがハッキリしてくる。さらに言えば、身近なコミュニティーとの関係性こそが自分自身を形づくる要素なのです。図にすると、図表2のようになります。先述の、「ポジショニング論」と「資源ベース論」の不可分性に似ています。

平井 孝志(ひらい・たかし)
筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。MITスローンスクールにてMBA、早稲田大学にて博士(学術)取得。ベイン・アンド・カンパニー、デル、スターバックス、ローランド・ベルガー等を経て現職。著書に、『キャリアアップのための戦略論』、『武器としての図で考える習慣 「抽象化思考」のレッスン』、『武器としての図で考える経営 本質を見極め未来を構想する抽象化思考のレッスン』など多数。