貧乏人の幸せと金持ちの幸せは違う

私自身、ニューヨークで家族3人して暮らしているときは、いっぱいいっぱいの生活だったので、わずかな昇給で絨毯を買うだけでもうれしかったものです。ところが、今まで欲しかった物がすべて手に入ってしまうと、「そんな絨毯、いつでも買えるじゃないか」となります。すでにお金の価値が違っているのです。

たとえば、年収200万円しかない低所得者が年収1億円の高所得者に向かって言い放ちます。

「1億円もあるのなら、そのうちの1000万円くらい貧乏人に寄付したらどうですか」

そうですね。そう思うのは当然でしょう。

でも違います。

1億円を得ている人は、自分の人生を豊かにするために「1億円の生活」をしているのであって、「200万円の生活」とは根本的に異なります。お金持ちにはお金持ちの生活があり、お金持ちの幸せがあります。お金の価値は生活レベルとともに変わっていくのです。

年収800万円を超えると、もはやそんなに幸福度は上がりません。

「だとすれば、年収800万円に達したら、もうお金は十分ですか」
「いや、十分とは言えません」
「では、1000万円に達しました。もういいですか」
「いや、まだだめです」

年収800万円なら800万円なりの生活があり、1000万円なら1000万円なりの生活があります。

お金持ちと貧乏の概念
写真=iStock.com/erllre
※写真はイメージです

貧しい者には貧しい者の幸福感、金持ちには金持ちの幸福感があると思います。

高級車に乗って毎晩、三ツ星レストランで散財している家族と、軽自動車に乗って、たまにファミレスで家族団らんを楽しむ家族。幸福度に違いがあるでしょうか。

丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新聞出版)
丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新聞出版)

お金が入ってくれば入ってくるに従って、生活と同じように価値観も変わってくるのです。同じ金額だからといって、同列に論じることはできません。

お金の価値、お金の強さは、生活と連動して変わっていく、ということです。人間が年齢とともに成長するように、お金も成長しているのです。加齢に伴っても、お金の価値は変わるでしょうね。

若いころは、月に10万円かかっていた食費が、歳をとって5万円で済むようになった。そのぶん自由になるお金が増えた。

それだけでお金の価値がガラッと変わります。

そして、そうした変化は死ぬまで続きます。

丹羽 宇一郎(にわ・ういちろう)
元伊藤忠商事会長・元中国大使

1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。98年、社長就任。99年、約4000億円の不良債権を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長就任。10年、民間出身で初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長。