組織全体を変えたいなら、まずは自分たちから
ところがミーティングがワークショップ型に切り替わったからといって、会社組織全体がワークショップ型に切り替わったわけではありません。会社の組織構造や体制、社内規定、評価制度などは、大きい組織であるほどそう簡単には変えられるものではありません。
そのような「変わらないシステム」を頭に思い浮かべると、今やっている努力は、無駄なものに思えるかもしれません。アイデアが思い浮かんでも「どうせ実現できないのでは」「チャレンジするだけ無駄なのでは」という発想につながり、結局は組織システムによって、現場メンバーの衝動に蓋がされてしまう、ということが往々にしてあります。
しかしながら、ファクトリー型の組織システムが根づいた大企業であっても、現場メンバーの衝動を起点に、事業変革が起こるケースを私はこれまでに何度も見かけてきました。すぐに組織の体制や制度を変えられなくても、ボトムアップに生まれる取り組みは、社内の誰かが必ず見ています。まずは自分たちのチームがワークショップ型に変わる努力を続けて、徐々に他のチームともつながりを作り、「勉強会」や「有志プロジェクト」を立ち上げて、自分たちの衝動に基づいて、組織とチームの新しい可能性を探る活動を継続するのです。そのときにバイアス破壊と仮定法の質問をうまく活用するのです。
「もし社内の評価を気にしなくて良いとしたら、何がしたいですか?」
「もし社内規定をひとつ変えられるとしたら、どの規定を変えたいですか?」
「もし組織構造を無視してよいとしたら、どのチームと連携したいですか?」
「もし誰にも怒られないとしたら、このアイデアを組織の誰に話したいですか?」
このように組織のシステムそのものを「とらわれ」と仮定して、バイアス破壊を仕掛け続けることによって、チームの活動の原動力を保つことができるでしょう。どんなに大きい組織であっても、現場レベルでチームのポテンシャルを発揮する努力を続けていれば、たとえば正式な活動として予算がついたり、個人評価の対象となったり、あるいは新規事業開発の部署として体制変更が決まったりなど、大きな変化につながることがあるはずです。問いかけの力を駆使しながら、試行錯誤を続けてみてください。
1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』などがある。