功績を精査することなく神格化してはいけない
あの日、安倍元首相が白昼堂々撃たれたことは、歴史的な事件になったことは間違いない。容疑者の動機がどうであれ、銃によって命が奪われたことは残念だ。しかし、故人を悼むことと功績を精査することなく神格化すること、容疑者にそうさせた社会の問題をきちんと検証することと暴力を正当化することは、それぞれ全く別のことである。
容疑者の家庭もまた、稼ぎ主を失った母子家庭であったことが報じられている。ジェンダー平等を願う人たちは、母子世帯や困窮する個人にセーフティネットを提供することの重要性をずっと訴え続けていた。そういうものを作ってこなかったどころか、安倍氏や多くの政治家たちが、自分たちが重要性を強調する「家族」の崩壊につながる宗教の広告塔になっていたのだとしたら。
だからといって襲撃されていい理由にはならないが、そのような人物がジェンダー平等に貢献した人物のように語られるのであればあまりに皮肉だ。
もちろん、ジェンダー政策以外でも、評価・検証がされるべき論点はあるだろう。それも含め言論やデータを積み重ねることを、あんな事件の後だったからこそ、諦めたくはない。
1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。15年から東京大学大学院教育学研究科博士課程、フリージャーナリスト。キッズライン報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞受賞。22年から東京大学男女共同参画室特任研究員。