女性の非正規雇用率は55%超に

しかし、2020年度まで続くことになった安倍政権の「成果」を評価すれば、このとき大半の研究者などが警鐘を鳴らしていたことは正しかったと言わざるを得ない。たとえば総務省の「労働力調査」によれば、第2次安倍政権が発足した2012年から2019年の間に非正規社員は約350万人増え、働き手の4割近くを占めるようになった。男性は上昇傾向で2割を超え、女性もリーマンショック後の2009年の53%から2013年以降55~56%に上がっている。

2021年4月、白波瀬佐和子東京大学大学院人文社会系研究科教授を座長とする内閣府の「コロナ下の⼥性への影響と課題に関する研究会」は、この非正規雇用の比率や、コロナ禍においてシングルマザーの失業が2020年第3四半期に大幅に増えていることや女性の自殺者の増加などのデータを踏まえ、次のように結論付けた。

「⼥性への深刻な影響の根底には、平時においてジェンダー平等・男⼥共同参画が進んでいなかったことがあり、コロナの影響により顕在化した」。

つまり、困窮する女性たちの問題はいつまでも注目されず、コロナ禍でさらに過酷になった。加えて、肝いりだったはずのエリート女性のほうも、政府の目標「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標は達成できなかった。

階段を下りる女性の足元
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単に女性の負担が増えただけのケースが多い

子育て支援はどうか。たとえば2016年に「保育園落ちた日本死ね」のブログが話題になり、当初安倍氏は「匿名なので起こっていることを確認しようがない」などと取り合わず、「待機児童ゼロ」は掲げたものの、在任中に達成はできなかった。

全国的には近年、待機児童は減少傾向にあり、2022年現在、定員割れを起こす保育園も出てきている。しかし、量の拡大を急いだあまり、基準が緩和され、実態は「保育の質」を伴わない園を増やしたという負の側面もある。

この間女性の就労率は上昇し、男性育休の義務化も進み、今年4月に法改正された。しかし、安倍政権時代の男性側の変化は大きくなく、単に女性が家庭でも労働市場でも「活躍」を求められ負担が増えているだけのケースも多かった。

そもそも保守的な家族の在り方を主張する安倍元首相が女性活躍を打ち出すこと自体に違和感があったが、それを裏付けるように自民党は同性婚や選択的夫婦別姓に反対し続けてきた。

これらは選択肢を作る施策であり、今までのように異性婚や家族で同じ苗字を名乗りたい人はそうすればいいというだけの話で、誰も新たに傷つかない、しかし当事者にとっては非常に意義のある仕組みであるにもかかわらず、だ。こうした家族観と統一教会の関係性も今後もっと検証されるべきだろう。

つまり、「女性活躍」について安倍氏は、いわば、打ち上げ花火を大きく上げたのは間違いないが、実績を出したとは言えない。花火だけを見てジェンダー平等のチャンピオンと見るのは短絡的だ。