入金してほしい旨を繰り返す
●何とぞ速やかにご入金いただきたく、よろしくお願い申し上げます
相手からの入金がいっこうにないからといって、怒りのメールを送るわけにもいきません。感情を投げつける代わりにせめてできることが「繰り返す」です。文例2では、件名に1回、文中に2回、入金してほしい旨が書かれています。感情的にならずに丁寧な繰り返しで、困惑している感じを伝えます。
こんな表現も
●至急ご都合をおつけくださいますよう、お願い申し上げます
●急ぎご対応いただけますよう、お願い申し上げます
●ご手配いただけますよう、お願い申し上げます
「入金してください」の文言のバリエーションです。このように変化をつけると、やんわりと何度も繰り返しやすくなります。ただ、表現を変えると印象が弱くなるのも確かです。緊急事態には、あえて「ご入金を……」「ご入金のほど……」と同じことばを繰り返し使うのもひとつの方法です。
●ご事情がおありのこととは存じますが
●当方の事情ご賢察のほどお願い申し上げます
入金がない理由として「忘れている」のではなく「できない」となると、相手にもよほど何事かの事情があるはずです。相手の関係によっては、催促のことばを繰り返したあとにクッションとして配慮する文を入れます。
今後の取引が難しい相手と決まったら
上記のようなメールを送ってなお入金がないとなると、いよいよ今後の取引にも重大な影響が出てきます。もうおつきあいはなくてもいい、回収だけはなんとでもしたいとなった場合には、最後の部分に以下のような文言を入れて送ります。
●○月○日までにご入金いただけない場合、弊社としてもしかるべき措置を取らざるをえません
決裂を言い渡すと言ってもいい一文です。繰り出す際は状況をよく見計らう必要があります。
『三省堂国語辞典』編集委員。1967年生まれ、香川県高松市出身。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院博士課程単位取得。国語辞典の改訂のために日本語を観察し、説明の原稿を書く毎日。一方で、分かりやすい論理的な文章を書くための方法を追究している。著書に『日本語はこわくない』(PHP研究所)『日本語をつかまえろ!』『日本語をもっとつかまえろ!』(毎日新聞出版)『知っておくと役立つ街の変な日本語』(朝日新聞出版)『伝わるシンプル文章術』(ディスカヴァー)ほか。
2003年ウェブメディア「デイリーポータル Z」にライターとして参加、2005年同編集部に所属。2018年よりはてなブログで日記の毎日更新を開始、2019年からは同人誌にまとめ頒布も始める。著書に『おくれ毛で風を切れ』『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)『気づいたこと、気づかないままのこと』(シカク出版)。高校生の長男と中学生の長女の3人で暮らす。