※本稿は、飯間浩明執筆・監修、古賀及子執筆『語彙力がなくても「伝わる」ビジネスメール術』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
返事を催促する
催促の度合いには、会合への参加の可否といった軽いものから、期日のはっきり決まった納品について尋ねる重いものまであります。
まずは、比較的軽い内容で、相手が忘れているかもしれない件の確認をする場合を見てみます。会合の出欠を尋ねるメールを送ったが、その返事がなかったため、催促をするという内容です。
いつもお世話になっております。○○です。
昨日はひどい雨で大変でした。
さて、○月の会合への出欠についてですが、その後ご検討いただけましたでしょうか。
開催日は、先日打ち合わせのとおり○月○日(水)○時となっております。出欠につきまして、○月○日までにお知らせいただければ幸いです。
催促がましくて申し訳ありません。
よろしくお願いします。
一般的な雑談の前置きでマイルドに
●昨日はひどい雨で大変でした
催促のメールはどうしたって結局催促のメールです。
となると「きついメールにならないよう気を使っております!」という姿勢で印象をよくしたいところです。
冒頭に一般的な話題を挟むことでマイルドにする、というよりは「ああ、マイルドにしようとしてくれているのだな」と相手に思ってもらえるようにします。
もっとも、冒頭が長くなるとなかなか要件に入れないので、コンパクトに書くことが大切です。
こんな表現も
●こちらは昨日、ひどい雨で大変でした。そちらはいかがでしたでしょうか
文例では雑談の鉄板である「天気」を話題にしました。相手が遠方であれば、様子を尋ねる形にすると自然です。
天気以外でも、年中行事などの、相手が共感を持ちやすい話題がいいでしょう。
期限を切る
●出欠につきまして、○月○日までにお知らせいただければ幸いです
期限を提示することは相手を追い立てるようで遠慮してしまいがちですが、具体的な日程をこちらからお願いするのは、実は優しさです。
相手は言われた日程どおりに動けばいいのですから、こんなに楽なことはありません。その上、こちらは「命令」ではなく頭を下げて「お願い」しているのです。
誰かに頭を下げられて、「よしやってやろう」と仕事ができるなんて、相手は幸せです。
催促だけれど催促ではない体で書く
●催促がましくて申し訳ありません
先ほども説明しましたが、催促のメールはどうしたって結局催促のメールであり、相手も「おっ! これは催促だな」とすぐに分かってしまうものです。
こちらも仕事ですから、もはや「そうだぞ、催促だぞ!」と開き直っても問題はないのですが、「なんだか催促みたいですみません」という姿勢を取って、型通りのことばを使うことで、コミュニケーションが円滑になります。
こんな表現も
●たびたびのお伺いで恐れ入ります
●重ねてのお伺いで失礼いたします
もう少しフォーマルな表現です。「何度も尋ねてすみません」という姿勢です。
●督促申し上げるようで心苦しいのですが
「督促」は「催促」よりもちょっとシビアなことばです。「期限までに行われていないことを履行してくれるよう急がせる」という意味があり、手続きや税金、債務などの場合によく使われることばです。
状況説明を求める
相手の作業はどこまで進んでいるのか。ちゃんと着手してくれているのか。もしかして忘れていやしないか。進捗を問う催促メールです。出欠の確認に比べて若干重めで、実際の作業に影響するケースです。
いつもお世話になっております。○○です。
ここ2、3日急に暑くなってまいりました。
先日お願いしたポスターの件、月曜日までに原案をメールでお送りいただくお約束になっていたかと存じます。その後進捗はいかがでしょうか。
いつ頃までにまとまりそうか、見通しをお知らせいただければ幸いです。
ご多忙のところまことに申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
手元に届いていないことをどう書くか
●月曜日までに原案をメールでお送りいただくお約束になっていたかと存じます
●その後進捗はいかがでしょうか
期日に届くべきものが届いていない。相手に過失があるため、婉曲に催促しようと気遣うあまり、下手すると嫌味のような書き方になってしまいがちです。
△まだ届いていないようです
△確認ができておりません
このようにしらじらしく書くより、「約束は月曜だった」という趣旨をさらっと確認します。
こんな表現も
●その後のご状況はいかがでしょうか
●その後、問題はございませんでしょうか
こちらの都合を伝えるよりも相手の状況を聞くほうに重きをおくのは、嫌味になりにくい書き方です。
成果物ではなく連絡の期日を聞く
●いつ頃までにまとまりそうか、見通しをお知らせいただければ幸いです
もしできていなくとも連絡を得て進捗を確認したいところ。とりあえずの見通しを聞くことで、相手が連絡するハードルを下げています。
こんな表現も
●何かお困りのことがありましたらお知らせください
事情があってのことだと分かっていますよ、と理解する気持ちを示す一文です。
切羽詰まっているこちらの状況を伝える
いよいよこちらの作業に影響が出て、困難が生じてきたケースです。
切羽詰まっており、一刻も早くなんとかしたいところですが、相手も相当難儀しているはず。感情的にならず、スケジュールの繰り合わせを優先します。
いつもお世話になっております。○○社の○○です。
先日お願いした座談会の文字起こしの件ですが、その後進捗はいかがでしょうか。
打ち合わせでは、○日にはお送りいただくというお話になっておりました。
「広報△△」の次の号は○月○日に発行予定ですので、○日までには校正刷りを出す必要があります。それを過ぎますと発行のスケジュールが非常に厳しくなってまいります。
つきましては○日午前中までにお原稿をお送りいただけませんでしょうか。
お忙しいことは重々承知しておりますが、ご連絡いただければ幸いです。
何とぞよろしくお願い申し上げます。
こちらのスケジュールまで整理して伝える
●打ち合わせでは、○日にはお送りいただくというお話になっておりました
●○日までには校正刷りを出す必要があります
●○日午前中までにお原稿をお送りいただけませんでしょうか
「○日」の繰り返しで分かるとおり、スケジュールの話を中心にしています。
まず相手とのそもそもの約束の日程を示し、それからこちらの都合を述べ、最後に相手にこうしてほしいと提案する構成です。スケジュールを共有して、早く動いてもらえるようお願いしています。
最後はまず連絡を求める形でしめくくります。
こんな表現も
●支障(不都合)を来しかねません
●深刻な影響が出てまいります
ビジネスメールで伝えることが一番難しいのは「自分の都合」です。こちらに都合があれば、あちらにも相応の都合があるわけで、催促のメールでは特に都合と都合がぶつかり合います。なんとかこちらの窮状を理解してもらい、相手に作業を進めてもらうためには、危機的な状況を率直に知らせることも必要です。
支払いや入金を催促する
お金の催促は、連絡や作業の催促とはレベルが違います。うまくいくかどうかが損得に直接関わります。
お金の話となると、こちらの切迫感も強まってきます。でも、だからといって相手に強く言えば解決するわけではありません。感情的な行き違いを防ぐため、むしろ最大限気を使う必要があります。
いつもお世話になっております。○○社の○○です。
先月○月○日に納入いたしました○○のデザインに関しまして、デザイン料を○月○日にご入金いただくお約束になっておりましたが、まだご入金がございません。
つきましては、至急ご入金いただけますようお願い申し上げます。
○月○日に納入いたしました○○のデザインに関しまして、デザイン料を○月○日にご入金いただくお約束になっておりましたが、ご入金がなかったため、○月○日にお問い合わせのご連絡を差し上げました。
その後、まだご連絡をいただけておりません。
至急ご入金いただけますようお願い申し上げます。
弊社は決算を控えており、ご入金がないために経理作業に支障を来しております。
何とぞ速やかにご入金いただきたく、よろしくお願い申し上げます。
深刻度がぐっと上がる
●弊社は決算を控えており、ご入金がないために経理作業に支障を来しております
入金の催促は初回と2回目ではかなり状況が違います。
初回は忘れていた可能性もあり、確認の意味で問い合わせたのですが、これが2回目となると、支払いの遅延は明らかです。
1つ目の文例では相手が忘れていた可能性を考慮した内容ですが、2つ目の文例はそうではなく、厳しく督促をする内容になっています。
こんな表現も
●経理業務に影響が出ております
●経理業務に差し支えが出てまいります
●当方としても困惑しております
支払いが遅延していること自体、こちらが困る理由になります。入金確認がいつまでもできないことで、経理担当者が困ることは確かなので、「経理業務に支障」といった文言を入れておくと、事態は深刻であり迷惑をこうむっているという感じがはっきり伝わるでしょう。
入金してほしい旨を繰り返す
●何とぞ速やかにご入金いただきたく、よろしくお願い申し上げます
相手からの入金がいっこうにないからといって、怒りのメールを送るわけにもいきません。感情を投げつける代わりにせめてできることが「繰り返す」です。文例2では、件名に1回、文中に2回、入金してほしい旨が書かれています。感情的にならずに丁寧な繰り返しで、困惑している感じを伝えます。
こんな表現も
●至急ご都合をおつけくださいますよう、お願い申し上げます
●急ぎご対応いただけますよう、お願い申し上げます
●ご手配いただけますよう、お願い申し上げます
「入金してください」の文言のバリエーションです。このように変化をつけると、やんわりと何度も繰り返しやすくなります。ただ、表現を変えると印象が弱くなるのも確かです。緊急事態には、あえて「ご入金を……」「ご入金のほど……」と同じことばを繰り返し使うのもひとつの方法です。
●ご事情がおありのこととは存じますが
●当方の事情ご賢察のほどお願い申し上げます
入金がない理由として「忘れている」のではなく「できない」となると、相手にもよほど何事かの事情があるはずです。相手の関係によっては、催促のことばを繰り返したあとにクッションとして配慮する文を入れます。
今後の取引が難しい相手と決まったら
上記のようなメールを送ってなお入金がないとなると、いよいよ今後の取引にも重大な影響が出てきます。もうおつきあいはなくてもいい、回収だけはなんとでもしたいとなった場合には、最後の部分に以下のような文言を入れて送ります。
●○月○日までにご入金いただけない場合、弊社としてもしかるべき措置を取らざるをえません
決裂を言い渡すと言ってもいい一文です。繰り出す際は状況をよく見計らう必要があります。