職場環境・風土と男性の意識の問題
男たちを介護離職に向かわせる背景には、職場の問題と、彼ら自身の意識、考え方の問題がある。
まず、介護休業を取得しにくい職場環境・風土の問題だ。多くの企業が介護休業を就業規則に記載して導入し、制度面では整備が進んでいるものの、実態としては、家族を介護している男性労働者のうち、介護休業を利用したことのある人は7.4%、女性労働者の場合は、同7.6%で、ともに低い割合にとどまっている(17年「就業構造基本調査」の数値から算出)。
もうひとつの問題が、事例でも紹介したように、男性自身が介護サービス事業者など他人を頼ることができず、自分で介護を担うべきと考えている点である。「他人を頼る弱々しい男と思われたくない」「家内の面倒も自分で見られない、頼りない惨めな男と思われたくない」などの語りからも、男たちが古い「男らしさ」の固定観念に囚われていることがわかる。
また、これまで自身が母親や妻に身の回りの世話をしてもらうなど、日常生活において周囲から助けられてきたことを当然のこととして軽んじた結果、自らのケア能力を身につけ、他者の支援を好意的に受け入れようとする意識を阻んできたともいえる。
この結果、家族介護の疲労で仕事に集中できず、職責を果たせないことなどを苦に、介護離職に至ってしまうケースが後を絶たないのだ。
介護離職は貧困はもとより、地域・社会からの孤立によって精神的に追い詰められ、介護放棄や高齢者虐待に陥りかねない危険因子ともなっている。このような負のスパイラルを職場、地域、そして社会全体として、何としても食い止めなければならない。
京都府生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。元読売新聞記者。日本文藝家協会会員。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、医療社会学。2000年代初頭から社会構造を問うべき問題として男性の生きづらさを追うほか、職場のハラスメントや介護離職問題、シニア人材戦力化の課題、労働問題の医療化等を研究。最長で20数年にわたり、同じ取材対象者に継続的にインタビューを行う。主な著書にベストセラーとなった『等身大の定年後』(光文社新書)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社新書)、『男性漂流』(講談社+α新書)などがある。近著に『抱え込む男たち ケアで読み解く生きづらさの正体』(朝日新書)。