苦はいつか必ず消えてなくなる

私たちは、苦という感情に心ならず体全体まで、私という人間が丸ごと支配されてしまっていると思ってしまいがちです。しかし、私のイメージでは、体全体は常に安定という薄紙に包まれていて、苦が湧き上がってきたときには、シャボン玉のような球体が顔の斜め前あたりにポッと浮かんでいるだけのこと。

苦に執着すれば、シャボン玉はますます大きく膨らむかもしれませんが、体を覆いつくすことはなく、必ず、いつかは消えてなくなります。あ、そこにいるのね、と感情を受け止めて執着しなければ、早々に消えていきます。

いずれにしても、ずっとそこにあり続けることはなく、いつかは消えてなくなり、デフォルトセッティングである安定だけの状態に戻ります。

その現実をあるがまま受け止めるだけでいい

この世は無常で、一瞬として同じ時間はありませんし、永遠もありません。時は常に移り変わり、人間の心も変化していきます。

電車でも車でも、長いトンネルを走っているときは、途中の景色がほとんど変わらないように思えますが、やがて小さな光が見えて出口へとたどり着きます。

何か心配ごとがあるとき、永遠にその状態が続くのではないか、自分はそこから逃れられないのではないか、このトンネルに出口はないのではないかと思ってしまうかもしれませんが、明けない夜はないように、終わりのない苦もありません。

だから、どれだけ苦に悩まされ、とらわれそうになっても、恐れることはありません。苦の感情がある、今はトランス状態にある。その現実をあるがままに受け止めるだけでいいのです。

松原 正樹(まつばら・まさき)
臨済宗妙心寺派 佛母寺住職、東京大学大学院情報学環客員教授、米コーネル大学東アジア研究所研究員

ベストセラー『般若心経入門』の著者で名僧の松原泰道を祖父に持つ。コーネル大学でアジア研究学の修士号、宗教学博士号を取得後、カリフォルニア大学バークレー校仏教学研究所、スタンフォード大学HO仏教学研究所を経て、現在に至る。グーグル本社で禅や茶道の講義をするなど、マインドフルネス界からも注目を集めている。アメリカと日本を行き来しながら、禅とマインドフルネスの橋渡し的存在として、国籍や人種、宗教を問わず人々の「心の救済」にあたっている。