「母になることが唯一の道」

アメリカのフェミニスト哲学者ダイアナ・ティージェンス・マイヤーズは、これを想像力の植民地化と呼んでいる。それにより、私たちは母になることが唯一の道であるという概念を吸収し、他の利用可能な選択肢を想像できなくなり、想像できる唯一の決定が「純粋な空間」からやって来たような印象を持つのである。

この植民地化は、女性が母になるまでにはさまざまな経路があることが多くの場合隠されていることからも起こる。これは、母になることは本能的な欲求だという名目で語られる「自然界の言語」と「選択のレトリック」を維持するための隠蔽である。

すべての道が子どもを産みたいという願望から始まるわけではないし、少なくとも願望が明白なわけではない。たとえば、私の研究に参加した母の一部は、あまり考えずに、流れにまかせて妊娠したと話していた。数名が、自分の社会集団に溶け込みたいなど、子どもが欲しいという以外の理由で母になりたかったと説明した。また、妊娠する前に(時には自分が子どもの頃から)子どもを産みたくないとわかっていたが、明確な、または内在的な圧力のために母になったという人も複数いた。

オルナ・ドーナト(Orna Donath)
イスラエルの社会学者、社会活動家

テルアビブ大学で人類学と社会学の修士号、社会学の博士号を取得。2011年、親になる願望を持たないユダヤ系イスラエル人の男女を研究した初の著書『選択をする:イスラエルで子供がいないこと(Making a Choice: Being Childfree in Israel)』を発表。2冊目となる『母親になって後悔してる』は、2016年に刊行されるとヨーロッパを中心に大きな反響を巻き起こし、世界各国で翻訳された。学術研究に加えて、イスラエルのレイプ危機センターの理事会の議長を務め、12年以上にわたってセンターでボランティア活動を行っている。