目の前の問題にフォーカスする

そんなふうに視野を広げて「今、自分にできることは何か」をもう一度、考えてみましょう。コツは“今”に焦点を当てること。「あの時ああしておけばよかった」と過去を振り返って後悔したり、「この先こんなふうになってしまったらどうしよう」と将来の不安にばかり気を取られないことです。過去や未来を考え過ぎると、そこにエネルギーを取られて、「今何ができるか」が考えられなくなってしまいます。悩んで何もしないと、何も変わりませんから、なかなかよくなりません。

今、自分の目の前にある一つひとつの問題に対して、何ができるかを探していくのです。例えば患者会に行く、ヘルパーさんに頼ってみる、親を介護施設に入れるなど、何かしらのアクションを起こして、その結果、どうだったかを試すというプロセスが大切なのです。もちろん、うまくいかないこともあると思いますが、少しずつ前進している感じが持てますし、小さなことでもうまくいけば自信につながります。こうしたプロセスそのものが、治療になっていくわけです。

同時に、自分の趣味や好きなことを生活の中に積極的に入れて、少しでも気持ちが晴れることを実践していきましょう。特におすすめなのは、運動したり、マッサージやサウナに行ったりといった、身体的な癒やしです。ストレス解消につながりやすいので、短時間であっても、ぜひやってほしいです。

「3カ月」を目標に

夜寝て朝起きるという生活リズムを整えることは非常に重要です。夜、寝られないというのは、いわゆる五月病、適応障害やうつのよくある症状です。対処療法的に睡眠薬を使うことはありますが、できるだけ自分で生活リズムを整えたほうがよいです。

逆に、睡眠の乱れが病気の引き金になることもあります。予防のためにも、ふだんから良質な睡眠をとることは大切にしてほしいです。仕事やプライベートで環境の変化があったという人は、特に5月、6月に不調になりやすいですから、この時期はしっかりと睡眠をとるよう気を付けてください。

環境の変化への対応を考えたときに、一つの目安となるのが3カ月です。ですから、例えば4月に大きな変化があった場合、7月くらいまで何とかやっていけたら大丈夫です。環境にうまく適応できているということになるので、3カ月を目標にするとよいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。