「叱る人を叱る」のはなぜ役に立たないのか
また、安易な「叱っちゃダメ」というメッセージは「叱る人を叱る」発想になりやすいという問題もはらんでいます。「叱る=悪、だめなこと」という気持ちが強くあればあるほど、「叱っている人」を見るとそのことを許せない気持ちになります。そして、「叱っちゃだめでしょ! なぜそんなことをするの?」と叱る人を非難したくなるのです。
けれど考えてみてください。先ほど、叱っても学びや成長にはあまり役に立たないとお伝えしました。そう考えると当然、「叱る人を叱る」こともまた、あまり役に立ちません。相手に「叱る」ことをやめてもらうという、課題解決の効果は高くないのです。
こういった、単純で無邪気な「叱る」の否定がうまくいきにくいのは、なぜ叱らないほうがよいのか、その理由が誤解されていることが多いからなのです。
子育てや保育・教育・人材育成の現場にいる支援者、教育者、管理者は、テキストや講義、研修などを通じて繰り返し「叱っちゃダメ」と言われる機会があり、耳にタコができている人も少なくないかと思います。でも、本音では次のように思っているかもしれません。
「叱っちゃダメなんて言う人は、現場のことをわかっていない。叱らずに済ますことなんてできない」
こういった考え方に共通しているのは、「叱ることには効果があるが、やらないほうがいい」という認識です。つまり、ここでもやっぱり「叱る」ことの効果が過大評価されているのです。しかしながらこの認識は誤りです。
効果がないのに弊害が大きい
「叱る」をできるだけ避けたほうがいい第一の理由は、倫理的、道徳的なものではなく、単純に効果がないからです。そして効果がないわりに、副作用としての弊害は大きいのです。
「叱る」とうまくつきあっていくためには、広く浸透している「叱る」への過信から卒業することが必要です。そのために、まずは「叱る」にまつわるさまざまなメカニズムを理解しなくてはいけません。
1977年、大阪生まれ。公的機関での心理相談員やスクールカウンセラーなど主に教育分野での勤務ののち、子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、発達障害、聴覚障害、不登校など特別なニーズのある子どもたちと保護者の支援を行う。現在は人の神経学的な多様性(ニューロダイバーシティ)に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動する。『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國書店)、『ニューロダイバーシティの教科書』(金子書房)など、共著・解説書も多数。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理、Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役。