兆候が表れる前に「予防」を

兆候としては、持ち物、服装、話題がガラッと変わる、帰宅が遅くなることが急に増える、急に性格が変わったように優しく礼儀正しくなったり、まったく違う人と付き合い始めて以前の友だちとは縁を切ってしまう、お金の使い方が荒くなる、などが挙げられます。

大学生では授業に出なくなり、中には退学してしまう学生も。一人暮らしの場合は、これまで長期休暇のあるときには帰省していたのが、わけも言わず、あるいは嘘をついて帰ってこなくなり、家族との連絡を絶つこともあります。こうした変化が急激に起こったら、カルト被害を疑ってみたほうがいいと思います。

脱会は非常に困難、とにかく予防を

しかし残念ながら、「変化に気づいてからでは遅すぎた」ということも少なくありません。いったんカルトに入ってしまうと、彼らの現実を無視した甘い言葉だけを一方的に信じてしまい、親や大学スタッフや教員などがいくら説得しても耳を貸さず、脱会させるのは非常に難しいからです。いわゆるマインド・コントロール状態になるのです。

しかも、脱会させることに協力してくれるような相談窓口はほとんどなく、また、仮に運よくうまく救い出せたとしても、その後の社会復帰には経済面や心理面でいくつもの困難があります。実際、被害にあった本人や家族には、かなり長期にわたって、つらい思いをし続けている人が多くいます。

ですから、いちばん有効な手立ては「予防」です。親としては、子どもがカルトと接触する前に予防的な情報を与えておくこと、何でも相談できる関係づくりをしておくことが大事でしょう。

「うちの子に限って、まさかそんな勧誘にのるわけがないだろう」という親の思いは大いにわかりますが、どんなに優秀な学生でも、人生に悩みを抱えることはあります。10~20代の子を持つ方は、ぜひ、すぐにしっかりとしたカルトの知識を得て、その勧誘手口や危険性をわが子に伝えておいてほしいと思います。

教員として大学生を見ていると、彼らはカルトの存在自体は知っていますが、身近な問題だとは感じていないようです。自分の大学にいるとは想像しておらず、自分が引っかかるとも思ってもいません。

カルトがどんな表看板を掲げているのか、どんな手口で近づいてくるのか、そしていったん入ってしまうと人生がどう壊れるのか――。大学生自身はもちろんその親世代の皆さんも、ぜひ正しい知識を得て、予防と自衛に努めていただきたいと思います。

構成=辻村洋子

西田 公昭(にしだ・きみあき)
立正大学心理学部教授

1960年生まれ。89年関西大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得退学、博士(社会学)。詐欺・悪徳商法の心理学研究の第一人者として新聞、テレビなどのマスメディアでも活躍。著書に『マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル』ほか。