春は、若者が新大学生や新社会人として新たなスタートを切る季節。そうした若者を狙うのが、「カルト的集団」だ。日本脱カルト協会代表理事で立正大学教授の西田公昭さんは「カルトはSNSを駆使しており、勧誘の手口は年々巧妙になっている。『カルトが近づいてきたらすぐわかるはず』『そんなに簡単に取り込まれるはずがない』とは思わない方がいい」という――。
サイバー犯罪の被害者
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大学生は狙われている

近年、ますます巧妙な手口で若者を狙うカルト的集団の勧誘が増えてきています。カルト的集団とは、一見よい活動をしているように見せかけながら、メンバーやその知人に対してさまざまな悪質行為を行う集団のこと。悪質行為の例としては、自由の剥奪、私生活への干渉、批判の封鎖、リーダーへの絶対服従などの人権侵害が挙げられます。

大学生、特に入学したばかりの1年生は、カルト的集団から見れば“魅力的なカモ”です。新しい環境に夢や期待がふくらみ気も大きくなっている一方で、新生活に不安も抱えています。初めて親元を離れ、一人暮らしをする人もいるでしょう。実は表面的なものに過ぎないのですが、優しく親切に手を差し伸べてくれると、よく知らない人にでもつい頼ってしまいがちです。

また、10代から20代前半は、人生設計がまだ定まっておらず、自分の将来に漠然とした不安を持ちやすい「人生の探索期」。加えてコロナ禍以降に入学した学生は、キャンパスなどで深く他者と交流する機会もほとんど与えられていません。友だちをつくれず孤独感を抱えている学生は、非常に狙われやすい存在なのです。

SNSの「#春から○○大学」に紛れ込む

カルトはその不安や孤独感につけ込み、巧妙な手口で勧誘してきます。以前はキャンパスで、サークル勧誘などを装って声をかける手口が主流でしたが、最近はSNSでの勧誘が圧倒的に多くなっています。例えば、今どきの若者は、進学する大学が決まるとSNSに「#春から○○大学」というハッシュタグを使って投稿する子が少なくありません。

そうやって入学前から友だちをつくろうとするわけですが、つながった相手の中にカルトのメンバーがこっそりと紛れ込んでいることがあるのです。

「カルトなんて、すぐわかるんじゃないか。言動から怪しいと気づくだろう」と思うかもしれません。しかし、声をかけてくる本人も自分の所属する団体がカルトとはこれっぽっちも思っていないですし、SNS上で相手がカルトかどうか見分けるのは、私たち専門家でも至難の技。こうしていったんSNSでつながってしまうと、カルトは徐々に心に深く踏み込んできます。

最初の誘いの言葉としては、「楽しくてためになるセミナーに参加してみない?」「すごい先輩がいるから会ってみない?」などが多いようです。今は自宅からオンラインで参加したり会ったりすることもできますから、大学生にしてみれば安心感があり、気軽に承諾してしまいやすいのです。

次に、セミナーや会話の中で将来の夢や人生の意義といった話題を持ち出し、本人のやりたいことを応援すると見せかけながら、少しずつ集団に引き込んでいきます。そのため本人は「すごい人だな」「親切な人だな」「頼りになる人だな」となどの好印象を抱いてしまい、自分がカルトに取り込まれつつあることに気づけません。

表看板は「宗教」とは限らない

カルト的集団はその多くが全体主義的であり、集団内では個人の自由や権利は保障されません。入った人は自身の思想や行動の自由を捨てて、他のメンバーと一緒に熱狂的に集団活動をするよう求められます。また、集団に対する批判的な言動は悪とされていて、メンバーが互いに監視・密告し合うことも少なくありません。

個人のプライバシーや私生活は極めて制限され、集団活動が最優先されます。そして多くの集団にはカリスマ的リーダーがいることが多く、メンバーは“正しくすばらしい”目的達成のためには自ら進んで、喜んで服従するのが当然とされています。

これらの特徴を備えた集団がカルトです。カルトというと、かつてのオウム真理教のように宗教団体の看板を掲げた集団をイメージしがちですが、実は彼らが掲げる“表看板”は宗教に限りません。オウム真理教の事件以来、日本では小さな宗教団体が「何だか怪しい」と敬遠されるようになったため、最近ではさまざまな表看板が使われるようになっています。

「自己啓発カルト」「商業カルト」も

ボランティア団体やNPO団体を標榜することもあれば、自己啓発セミナーの主催団体を名乗ったり、スピリチュアルや癒し、瞑想といったキーワードを掲げることもあります。そうした活動やキーワードに引かれる人は必ず一定数いるので、そこを狙って勧誘するわけです。

カルト的集団が掲げる看板は、時代によって移り変わってきました。1970年代には左翼などの政治的カルトが、80~90年代には宗教的カルトが盛んでしたが、今は自分を高めたいという気持ちを利用した「自己啓発カルト」や、夢の実現資金の調達や経済的不安につけ込んでマルチ商法や投資を勧める「商業カルト」も増えてきました。

つまり、カルトと一口に言っても、彼らが掲げる看板には、政治、宗教や癒し、自己啓発、ビジネスなどがあるのです。いずれもそれ自体は違法というわけではないものばかりなので、カルトだと気づかないまま勧誘に乗ってしまう若者も少なくありません。しかし、いったん入ってしまうと脱退は難しく、結果的に将来を奪われることになります。カルトは若者の人生を壊す集団であり、大きな社会問題なのです。

成人年齢引き下げで「標的」拡大の恐れ

これまでは、大学1年生に加えて、3年生以上をターゲットに、お金への興味関心を利用する手口も増えていました。就活セミナーで声をかけ、少し会話を重ねた後に、「マルチ商法」(連鎖販売取引)や投資セミナーなどに誘うのです。

カルトの勧誘では、東大、京大、阪大、早慶、MARCH、関関同立など、いわゆる有名大学の学生ほど狙われやすい傾向にあります。組織内にそうした学生を先に取り込むこむと、次の勧誘対象の信頼を獲得しやすくなるからです。

今まで大学3年生以上が狙われていたのは、20歳になれば「民法上の成人」になるからです。成人は、親の同意なく、自らの責任でローンを組んだり消費者金融から借り入れしたりすることができます。さらに、未成年者ならうっかり契約を結んだとしても、親の同意がなければ後から取り消せますが、成人はそうはいきません。

最近、被害者が続出した手口としては、投資学習用の教材などと称したUSBメモリを60万円ほどで買わせて、その購入者に、新たな参加者を勧誘させるという方法で被害が広がったものがあります。被害者たちは、SNS上の知人やサークル仲間に誘われ、将来の所得不足に不安があることから「儲ける」ことへの興味関心を煽られ、「良きサイドビジネスになるのでは」という期待から話に乗ってしまっていました。

しかし、これはハイリスクなマネーゲームというか「ギャンブル投資」への勧誘ですし、どう考えても価値の低い情報商材へのぼったくりです。「教材を買えば儲かる」「人生の成功者になれる」などと、実現が困難なのに、夢をやたらに煽って勧誘活動に縛りつけ、学業やプライベートの生活に制限をかけたり、放棄させたりしています。しかも、友人や知人の勧誘に成功すれば、その人数に応じてお金がもらえるという仕組みは、まるでマルチ商法的でもありますから、これは商業カルトと捉えるべきでしょう。

2022年4月からは、成人年齢が現行の20歳から18歳に引き下げられます。これによって、新たに成人となる大学1~2年生が商業カルトのターゲットになるだろうことは想像に難くありません。

日本人学生
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高校生をSNSで「青田買い」

さらに、近年はSNSの普及に伴って「青田買い」も進行しています。勧誘のタイミングが、大学生から新入生、入学式、合格発表、高校生へとどんどん早まってきているのです。

高校3年生では、進学先の情報を提供してくれるサイトが、実はカルトの運営によるものだったという事例があります。「めざす大学に在籍する先輩が、進学のアドバイスをしてくれる」という形をとりながら、徐々に集団に引き入れていく手口でした。

最近の高校生は、SNSでたくさんの友だちとつながっていますから、あっという間に高校中に広めてしまうこともあります。本人は、いい情報を皆に教えてあげていると思い込んでいるので、良いことをしているつもりで被害を広めてしまうのです。

では、高校生や大学生の子を持つ親は、どんな点に気をつけたらいいのでしょうか。最近のカルトはSNS上で近づいてくることが多いため、わが子が接点を持った時点で気づける親はほとんどいないと思います。できるかもしれないのは、取り込まれそうな場合の兆候を見逃さないことです。

兆候が表れる前に「予防」を

兆候としては、持ち物、服装、話題がガラッと変わる、帰宅が遅くなることが急に増える、急に性格が変わったように優しく礼儀正しくなったり、まったく違う人と付き合い始めて以前の友だちとは縁を切ってしまう、お金の使い方が荒くなる、などが挙げられます。

大学生では授業に出なくなり、中には退学してしまう学生も。一人暮らしの場合は、これまで長期休暇のあるときには帰省していたのが、わけも言わず、あるいは嘘をついて帰ってこなくなり、家族との連絡を絶つこともあります。こうした変化が急激に起こったら、カルト被害を疑ってみたほうがいいと思います。

脱会は非常に困難、とにかく予防を

しかし残念ながら、「変化に気づいてからでは遅すぎた」ということも少なくありません。いったんカルトに入ってしまうと、彼らの現実を無視した甘い言葉だけを一方的に信じてしまい、親や大学スタッフや教員などがいくら説得しても耳を貸さず、脱会させるのは非常に難しいからです。いわゆるマインド・コントロール状態になるのです。

しかも、脱会させることに協力してくれるような相談窓口はほとんどなく、また、仮に運よくうまく救い出せたとしても、その後の社会復帰には経済面や心理面でいくつもの困難があります。実際、被害にあった本人や家族には、かなり長期にわたって、つらい思いをし続けている人が多くいます。

ですから、いちばん有効な手立ては「予防」です。親としては、子どもがカルトと接触する前に予防的な情報を与えておくこと、何でも相談できる関係づくりをしておくことが大事でしょう。

「うちの子に限って、まさかそんな勧誘にのるわけがないだろう」という親の思いは大いにわかりますが、どんなに優秀な学生でも、人生に悩みを抱えることはあります。10~20代の子を持つ方は、ぜひ、すぐにしっかりとしたカルトの知識を得て、その勧誘手口や危険性をわが子に伝えておいてほしいと思います。

教員として大学生を見ていると、彼らはカルトの存在自体は知っていますが、身近な問題だとは感じていないようです。自分の大学にいるとは想像しておらず、自分が引っかかるとも思ってもいません。

カルトがどんな表看板を掲げているのか、どんな手口で近づいてくるのか、そしていったん入ってしまうと人生がどう壊れるのか――。大学生自身はもちろんその親世代の皆さんも、ぜひ正しい知識を得て、予防と自衛に努めていただきたいと思います。