社会の深層を鋭い視線で見つめ、問題提起をしている武田砂鉄さん。7月に発売された『マチズモを削り取れ』では、日本社会にしぶとくはこびる「マチズモ=男性優位主義」について考察し、注目を集めています――。
鉄道駅
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「男だって大変」が隠してしまう問題の本質

——マチズモを削り取れ』では、痴漢など、女性が公共空間でさまざまな実害にあっていることから日本型組織に残る根本的な女性差別の構造までを解き明かしています。男性である武田さんがここまで深く女性の問題を書こうと思ったのは、なぜですか。

【武田砂鉄さん(以下、武田)】これまで、ライターとして様々な問題を考察してきて、日本社会に残る男性優位の構図に行き着くことが数多くありました。年配の男性たちの考えで物事が強引に決められてしまうのを見て、いつまでこれが繰り返されるのだろうと。なので、“女性の問題”ではなく“男性の問題”です。今回の本では、マクロよりミクロの視点、自分の経験や編集者との対話を出発点に、より身近な場面について具体的に考察を進めていこうと考えました。

——2章は「電車に乗るのが怖い」というテーマですが、本の発売後の8月にも小田急線の車両内で男性が女性に切りつけ、その動機として「幸せそうな女性を見ると、むかつくから」と語ったという報道がありました。それに対してTwitterなどでは「男性は非正規雇用で不安定だった」「女性より男性のほうがしんどいのは確か」と犯人を擁護する投稿がありました。

【武田】この本の1章で、混み合う駅構内で女性にわざとぶつかってくる男性の話を書きました。女性に向かって次々と体をぶつけていく男性の様子を捉えた動画がネット上で拡散された際、そのコメント欄には「その日その若者は上司に怒られたか」「下っ端でこき使われているからストレス発散か」といった、男性の行動の背景を推察するコメントがついていました。今回の小田急線のような事件が起きると、加害者側の背景を想像しようとする動きが必ず起きます。その動きが真っ先に出てくるのがおかしい。「女性より男性のほうがしんどい」が真っ先に出てくるのは順番として明らかにおかしいわけです。