新社会人は、親元を離れたことによる寂しさや経済的不安から、説明会やセミナーと称する勧誘の場に参加し、マルチ商法やマルチまがい商法に取り込まれてしまうことが少なくない。詐欺や悪質商法に詳しい立正大学心理学部教授の西田公昭さんは「彼らは最初はまったく怪しくない。『儲けたい』『人と違うものがほしい』という心理をつき、巧妙な手口で近付いてくる」という――。
お金のトラブルについて考える人
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新社会人の心理につけ込み懐に入り込む

近年、経済的に豊かになりたい、不安定な経済基盤を安定させたい、という気持ちにつけ込んだ「マルチ商法」や「マルチまがい」の被害が広がっています。特に新社会人は、こうした悪質な組織にとって“魅力的なカモ”。新しい環境に入ったばかりで不安や迷いを抱えやすく、さらに理想と現実のギャップに気づき始める時期でもあるため、つけ込まれやすいのです。

狙われやすいタイプは共通しており、ひとつは、「生きがい」や「やりがい」といった人生の夢や生きる意義を見失いがちの状態にあること。もうひとつは、人一倍自意識が高く、自分こそ社会的に成功するはずの「原石」だと思いたい人です。

この2つの要素が揃った「心もとない状態にある人」は、特にマルチ商法やマルチまがいのターゲットになりやすいと言えるでしょう。特に、地方から都会に出てきて一人暮らしを始めたばかり、つまり親の庇護から離れたばかりだと、不安定でつけこまれやすくなります。

その中で、経済的な成功を収めたい人は投資セミナーなどと称した詐欺や悪質なマルチ商法、そうでない人は、「キラキラした人生」を煽る自己啓発セミナーなどを隠れ蓑にした消費被害に遭いやすい傾向にあります。

新社会人は、給料をもらうようになって初めて、理想と現実のギャップに気づきます。経済的に豊かになるのはそう簡単でないと実感し、中には「一攫千金でも狙わない限り経済的に豊かな生活は見込めない」と考え始める人も出てきます。

いったん入ると抜けにくい

マルチ商法やマルチまがいの組織は、政治団体や宗教団体を標榜するカルト的集団とも共通点があります。ターゲットとなる人を複数で囲い込んで「いい商品だ」と信じ込ませる手口も、いったん入ると離脱しにくいという点も似ています。その意味では、マルチ商法やマルチまがいも、カルトの一種と捉えることができるでしょう。

マルチ商法は、商品やサービスを契約してその組織に入った人が、次は自分が勧誘者となって家族や知人に契約を勧めるもの。英語の「マルチ・レベル・マーケティング」の略で、「連鎖販売取引」と呼ばれます。昔からトラブルが多く、イメージを変えるためか、「ネットワーク商法」などという場合もあります。

こうした販売方法は、一定のルールさえ守れば合法とされ、物品が流通しないようなネズミ構と判断されれば違法になりますが、一般には普通に雑談しているふうに見えるので勧誘ルールが守られているかどうかを監視するのはとても難しいのです。なお最近では、法の抜け穴を突いた「マルチまがい」のような手口や仮想通貨を用いた新手も増えており、摘発や救済が非常に難しくなっているようです。

新社会人の子を持つ親としては、わが子が悪質なマルチ商法やマルチまがいに引っかかっていないかどうかしっかりチェックしたいところです。しかし、最近はSNSが普及し、オンライン講座もありますし、親に気づかれずにこっそり接近できる環境になってしまっています。