英会話教材から自然食品まで

こうした組織に取り込まれたときの兆候は、宗教カルトや自己啓発カルトなどと共通しています。それらの兆候については、前回の記事「大学1年生は"魅力的なカモ"」SNSでつながり、徐々に踏み込んでくる…カルトの新しい勧誘フレーズで触れました。これは新社会人でも同じで、大学生と違うのは、給与やボーナスをすべて活動に注ぎ込んでしまうケースが多いことです。

カルト的集団も、マルチ商法やマルチまがいの組織も、頼りになりそうな先輩や、なんでもよく知っている助言者のふりをして、SNSや友人の仲介で近づいてくることがほとんどです。若者の経済的不安や、人生の成功者になりたいという思いにつけ込み、「副業してみない?」「この方法で大儲けした先輩がいるよ」などと言って、説明会やセミナーなどに誘ってきます。

扱われる商品は、FX自動売買ソフトや投資学習用教材、英会話教材、オンラインゲームのアカウント取得など多岐にわたります。健康食品や水、サプリ、化粧品、下着、寝具などもあり、商品の説明を聞いただけでは怪しいと気づけないことも。ただ、いずれにも共通するのは「他者を勧誘することで稼ぐ」という点です。

「勧誘して稼ぐ」とわかった時点で、「怪しい」「こんなに簡単に儲かるはずはない」と気づければいいのですが、気づかないまま取り込まれてしまう人も少なくありません。法律では、儲けることが簡単ではないことなども、勧誘時に説明しなくてはならないことになっているので、告知せずに勧誘しているだけで悪質商法です。

契約によって来るお金を拒絶するビジネスマン
写真=iStock.com/Atstock Productions
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優越感や自尊心をくすぐる

特に危ないのは、前述の「頼りない状態にある人」に加えて「意識高い系の人」。基本的に真面目な性格で、「自分はこのままではいけない」「もっと高みに行けるはず」などと根拠があまりないのに思っている人がこれに当たります。

また、ほかの人とは違う「本当にいいもの」を選びたいと思っている人、陰謀論に影響されて「一般的な商品は危険なものが含まれているのに隠されている」と信じてしまうような人は、リスクが高いと言えるでしょう。

マルチ商法やマルチまがいの商品は、その組織を通してのみ購入できるものなので、当然ながらスーパーやコンビニでは売っていません。ここから、「自分は一般の人が買えない良い商品を知っている」という優越感が生まれます。

ただし、こうした商品が特別に優れたものであった試しがありません。単に優れていると思い込んでいるに過ぎないのですが、いくら科学的な根拠をもって否定されても、その証明を受け入れず、勧誘者の言葉をひたすら信じてしまいます。マインドコントロールに陥った状態です。

「本当にいいものだから、売れるだろう」と、誤信して購入することもあれば、「こんな高額は払えない」と思いながらも、周りから執拗に迫られて逃げ切れずに、困惑しながらも契約を結んでしまうこともあります。一定の売り上げを出さないと叱られたり、仲間に迷惑が掛かるので、半ば強制的にローンを組まされたり、消費者金融でお金を借りさせられることもあります。一度足を踏み入れると、なかなか抜けられず、抜けさせてもらえません。

マルチ商法やマルチまがいの組織は、ごくごく一部の成功者を取り上げて、あたかも同列になったり追い抜いたりが、自分にも簡単にできるかのように幻想をいだかせるといった煽り方で、人々の優越感や自尊心をくすぐる要素をたくさん用意しています。もちろん、本当は儲かっていないのに、儲かっているかのように装って勧誘する人もいます。そして、それぞれが多くの信奉者を獲得できると信じて勧誘活動を行い、さらに被害を広げ続けるのです。