「女性だから昇進」そんな甘い判断はしない

【白河】女性活躍の施策を進める中で、社内から「女性ばかり特別扱いして」という声が出たことはありませんか?

【山口】ないわけではありませんが、今は時代の流れとして女性活躍を推進しないと会社そのものが継続できないですよね。その点は皆もわかっているはずです。ただ、女性の中には「女性だから昇進したと思われるのが嫌」という人もいます。そうした人には「昇進させるのはあなたにポテンシャルがあるからだ、大変さはあるだろうが気にせず進んでほしい」と伝えています。実際、女性という理由だけで昇進させるなんて、企業はそんな甘い判断はしないですよ。

【白河】御社では女性管理職の人数が着実に増えていますが、職種によって数に偏りが出たりはしていませんか?

高校3年生で自分の適性がわかるはずがない

【山口】以前はマーケティングなどの職種が多かったのですが、今は営業部門にもエンジニア部門にも女性管理職がいます。ただ、今の段階では学校でIT(情報技術)を学ぶ女性自体が少ないので、どうしても数に偏りは出ますね。そもそも、高校3年生の段階で文系か理系かを選んで、その後ずっとその道を歩んでいくなんておかしいですよね。その年齢で自分の適正に基づいて将来の仕事まで決まってしまう流れには違和感を感じます。実際は、理系出身者でないとエンジニアになれないなどということはありません。当社にも文系出身のエンジニアがいますが、皆優秀です。そもそも理系、文系という区分けがいいのかも今後の議論ではないでしょうか。

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さんと少子化ジャーナリストの白河桃子さん
撮影=遠藤素子

【白河】文系エンジニアという言葉を流行らせるといいかもしれませんね。世界のソフトウエアの8割は男性がつくっていると言われますが、特に日本のIT業界は女性が少ない状態が続いています。今は文理をはっきり分けない大学もありますが、やはり女子学生は理系分野で活躍する職業をイメージしにくいようです。先生や親世代にも「女の子=文系」という思い込みが残っていますね。

【山口】そこを打破して、IT業界を目指す女性がどんどん増えてくれたらうれしいですね。当社の場合、新卒採用では女性もたくさん入ってくれるのですが、中途採用となると極端に減ってしまうので、そこが課題になっています。ただ、いったん退社した後に戻ってきてくれる人もいます。当社は出戻り大歓迎なので、そうした人の割合は結構多いですね。

【白河】出戻りが多いのはいいことですね。その人が退職する前よりいい会社になっているという証しではないでしょうか。最後に、女性活躍を含むD&I推進への意気込みをお願いします。

【山口】一緒に働いて成果を出していくうえでは、性別も出身も、そして役職も関係なく、その個々人をお互い尊重しあうことが重要です。D&I推進にも経営にも、常にそうした感覚を持ちながらあたっていきたいと思います。

構成=辻村洋子

山口 明夫(やまぐち・あきお)
日本IBM 代表取締役社長

1964年、和歌山県生まれ。87年、日本IBMに入社し、エンジニアとしてシステム開発・保守に携わる。その後、社長室・経営企画、テクニカルセールス本部長、米国IBM役員補佐などを歴任。取締役専務執行役員、グローバル・ビジネス・サービス事業本部長などを経て、2019年より現職。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。