日本IBM社長の山口明夫さんは、若い頃に赴任した米国で初めて「マイノリティの立場」を味わったという。その経験は、自身の考え方や同社のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進にどんな影響を及ぼしたのだろうか。ジャーナリストの白河桃子さんが聞いた──。

部下の約半数は女性や外国籍

【白河】御社では1960年代に女性の積極採用を開始して以降、長年にわたって女性活躍推進に取り組んでこられました。それはなぜなのか、背景を教えていただけますか?

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さん
日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さん(撮影=遠藤素子)

【山口】米国IBMには、昔から性別や人種、宗教などに関係なく人材を採用してきた歴史があります。1899年にはまだ人種差別の風潮が残る中で黒人や女性の採用を開始し、1960年代後半、人類初の月面着陸に至った「アポロ計画」には、IBMから多くの女性プログラマーが参加していました。以降、IBMはどんなに業績が苦しくなっても、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を大切に守り続けてきました。日本IBMも同様で、それはやはり会社の芯の部分にそうした歴史が深く刻み込まれているからだと思います。

【白河】ご自身も、入社当時から「性別に関係なく活躍できて当たり前」という感覚をお持ちだったそうですが、それは社長になられた今も同じですか? 例えば日本企業の上層部にはほとんど女性や外国人はいませんが、このような会議をみたら、どう思われますか?

【山口】社長になっても同じですね。今、私の部下のうち2〜3割は女性、2〜3割は外国籍です。そんな環境ですから、会合でも女性や外国籍の社員がいるのが当たり前という感覚です。もし全員が日本人男性だったらむしろ引いてしまう(笑)。もう少し正確に言うと、本当に正しい判断ができるのかと不安になりますね。この組織は大丈夫なのかと思ってしまう。そういった感覚です。

子会社社長の年齢を知らなかった

【白河】2020年には、御社の生え抜き社員である井上裕美さんが、39歳の若さで子会社「日本IBMデジタルサービス」の社長に就任されました。これも、そうした考え方の表れと言えそうですね。

【山口】実は、私は井上さんの年齢を知らなかったんですよ。報道で「若い女性が社長に就任」と取り上げられていたのを見て、初めて「あ、若かったんだ」と。当社は評価の際に性別や年齢、年次、学歴などは見ないですし、私自身もそんなことより「その人」を見るべきだと思っています。