世界的な女性起業家を生む中国

実際に、現在の都市部の女性たちを見回しても、北京や上海などの大都市で暮らす女性たちは東京や大阪の女性よりはるかに「解放」されている。例えば、大学の女子学生の割合(2019年)は日本では44.5%だが、中国では52.5%に達し、大学院は50.6%でいずれも日本(修士課程が30%、博士課程が33%)より女性の比率が高い。中国の女性は日本より高学歴志向だ。

また、中国人女性はビジネス界にも活発に進出している。その存在感は、中国人女性の世界人口比(20%)を考慮に入れても突出している。例えば、フーゲワーフ研究院の「女性起業家富豪世界ランキング2021年」によると、資産10億ドル(約1100億円)以上を所有する(遺産などではなく自ら起業した)世界の女性起業家富豪130人のうち、85人(65%)が中国人女性だった。その他は米国が25人、アジア系はインド(2人)、以下シンガポール、韓国、オーストラリア、タイ、ベトナム、フィリピンが各1人で、日本はゼロだった。

さらに、都市別ではトップの北京(16人)に、上海(11人)、深センと杭州(ともに10人)、広州(7人)、サンフランシスコ(6人)が続いた。こうしてみると、中国の大都市は女性起業家富豪が最も多い世界都市でもあるようだ。

「モザイク型」の中国社会

筆者も北京に長く生活しているが、女性として暮らすのに北京の居心地は悪くない。以前、米国のワシントンDCでも生活したので、東京も入れて3つの首都を比べてみると同じアジアであるにもかかわらず、北京は東京よりもワシントンDCに近いように感じる。仕事文化もサバサバとしており、「実力」や「結果」が追求されて厳しい反面、「女らしさ」や「気が利くこと」は元から求められないからだ。

社会全体の雰囲気も東京と比べてユニセックスな色彩が強い。そのため、普段からあまり男女を意識せずに過ごすことができる。東京でお化粧をせずには出かけられないが、ワシントンDCや北京ならそれもアリだ。日本では当たり前とされる女性ゆえの遠慮や気づかいは北京では要らない。

このように、中国では70年前の革命により都市部の女性たちは独立して働き、稼ぎ、結婚し、そして自分の氏名を名乗る権利を一気に手に入れた。ところが、読者もご存じのとおり、中国は広くて深くて複雑だ。人口規模は日本の10倍以上で、地理的にもヨーロッパがすっぽり入る大きさの上、歴史も4000年以上と長い。そのため、中国では常に相矛盾するものが混在しており、女性の置かれた状況も例外ではない。

上海大学の計迎春(ジ・インチュン)教授(社会学)は中国の家族関係を「モザイク型」と表現する。伝統的社会から脱皮して現代化していく西欧の「直線的」な発展とは異なり、中国では、現代と伝統がまるで「モザイク」の如く混在するという。中国のまだらで複雑な発展を上手く表現しており、膝を打った。

太陽の光の中で街を見る女性の背面図
写真=iStock.com/AerialPerspective Works
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