9割の会社では「好き・嫌い」が評価に大きく影響する

私が代表を務めているフォー・ノーツという会社では、さまざまな企業から評価制度の構築や見直しの相談を受けています。ご依頼を受けてお会いすると、多くの人事の方がため息混じりにこう言います。

「うちは、好き・嫌いで評価していますから……」

給与、昇進、ボーナス、異動、さらには左遷やリストラなど、会社員の人生はすべて「評価」によって決まります。

評価が高ければ、給与が上がり、昇進し、ボーナスも上がる。評価が低ければ、給与は上がらず、昇進もできず、リストラもあり得る。ビジネスパーソンにとって本来「評価」は極めて重要なものです。

にもかかわらず、何をすれば評価が上がり、評価が下がるのか。ほとんどの会社では、その基準を明らかにしていません。

総務省と経済産業省の発表によると、日本には現在約385万の企業があります。しかし、具体的かつ明確な「評価基準」を示している会社は、全体の1割程度。先進的な上場企業でようやく3分の1。それが私の実感です。

つまり9割近くの会社では、いまだに「好き・嫌い」を含む上司の個人的な主観によって社員の評価が行われているのが、日本の企業の実情なのです。たとえ評価制度がきちんと整った企業であっても、評価するのが同じ人間である以上、上司の「主観的な思い」が評価に反映されることは避けられません。

また、直属の上司が客観的に評価したとしても、経営者の「鶴のひと声」によって、その評価が変わってしまうことも少なくありません。評価や給与を上げたい、昇進したい、そう考えるなら、まずはこの現実を受け止め、自衛策を講じる必要があります。

経営者が特に嫌うのは「評論家タイプ」

私はこれまで1万人以上の採用面接、昇格面接や管理職研修にたずさわり、評価会議などを通じて多くの経営者と接してきました。

西尾太『人事はあなたのココを見ている!』(アルファポリス)
西尾太『人事はあなたのココを見ている!』(アルファポリス)

社員を評価する上司の「好き・嫌い」は人によって異なりますが、経営者の「好き・嫌い」には、実は共通する傾向があります。

ほとんどの経営者が嫌っている社員のナンバーワン、それは「評論家タイプ」です。

評論家タイプとは、口が達者で、偉そうなことは言うものの、自分では何も行動しない社員です。彼らは、会社や組織、上司や部下、商品やサービスなどの問題点を、鋭く論理的に指摘したりします。

しかし、「だったらオマエがやれ!」と言われると、「○○部が担当すべきでしょう」「○○さんの役割でしょう」などと責任を取ることを避けようとしたり、それができないと、今度は「できない理由」を並べ立てて、決して自分でやろうとはしません。

こうした社員は、その名の通り「評論家タイプ」と呼ばれており、経営者からは特に毛嫌いされています。

また、こうした評論家タイプは、上司からは高い評価を得たとしても、経営者の判断で「低評価」に変わってしまうことが少なくありません。

一流大学を卒業し、MBAを取得している超エリートであっても、「評論家タイプ」には厳しい評価が下されます。評価とは、「成果」と「行動」によって判断されるもの。どんなに立派なことを言っても、「行動」に移さなければ、評価はされないのです。

言い訳ばかりする「タラレバ社員」も要注意

「もっと営業が頑張っていたら、絶対に売れていたのに」
「時期さえ早ければ、この企画は成功していた」
「もっと人が足りていたら、こんな結果にはならなかった」

このように「○○していたら」と仮定の話を持ち出して、失敗の言い訳をする

「タラレバ社員」も、ほとんどの経営者が嫌っているタイプの代表格です。
「もっとスケジュールに余裕があったら……」
「もっと予算があったら……」
「もっと設備が整っていたら……」

仕事をしていれば、そう言いたくなる場面はあるものです。しかし、そうしたタラレバ発言はNGです。

「そんな条件、整うわけがないだろう!」

多くの経営者がそう叫んで、怒りを露わにする場面を私は何度も見てきました。仕事に「タラレバ」はありません。今ある状況で何とかするのが、高い評価を得ている人たちなのです。

西尾 太(にしお・ふとし)
人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表

「人事の学校」「人事プロデューサークラブ」主宰。1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリエイターエージェンシー業務を行なうクリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)などがある。