脳がくれる「ごほうび」

では悲しい時や幸せな時、私たちの脳の中では何が起きているのでしょうか。それが分かれば、自分で自分を少し幸せにすることが出来るかもしれません。

脳には「ごほうび」をくれるシステム(仕組み)があります。細胞と細胞の間でシグナルを送るための化学物質が何種類かあり、そのひとつが「ドーパミン」です。他にも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」「エンドルフィン」などの化学物質がありますが、複雑になり過ぎないように、今は「ドーパミン」の話だけにしておきます。

ドーパミンの仕事のひとつに、「何に注目し、集中すればいいのかを教えてくれる」というものがあります。好きなことをすると、例えばおいしい物を食べたり、友達と会ったりすると、ドーパミンの量が増えて幸せな気分になり、満足を感じます。つまり自分にとって良いことをすると、脳が「ごほうび」をくれるのです。

人間は食べなければ死んでしまいます。だから脳は、私たちが何かを食べる度にごほうび、つまりドーパミンを出してくれます。他の例もあげておくと、人類の歴史において、他の人たちと仲良く出来るかどうかは、生死を分けるような大切なことでした。だから人と仲良くしている時もドーパミンが出ます。私たちはドーパミンが大好きでいくらでもほしくなり、そのおかげで自分にとって良いことをしてしまうのです。

「いいね!」もドーパミンのもと

とはいえ、まったく無駄なことをやってしまうこともある……とも思いませんか? 例えば何時間もスマホをいじったりというようなことです。本当は他にやらなければいけないことがいくらでもあるというのに。しかし、これもドーパミンのせいなのです。SNSで「いいね!」がつく度に、小さなドーパミンのごほうびをもらえてしまうからです。

何万年も前に脳のごほうびシステムが出来上がった頃は、周りの人たちに好かれているかどうかが非常に大切でした。誰も1人では生きていけない時代だったからです。しかしその頃は、1時間に何百回も小さなドーパミンのごほうびをくれるスマホはありませんでした。私たちの脳は、スマホのような技術の進化についていけていないのです。ついていけていたら、スマホから手を離した時にドーパミンが出るようになっていたはずです。

ドラッグ(麻薬)も、昔の脳が想像もしていなかったような深刻な問題です。人をとりこにしてしまう様々な種類の薬物や、タバコに入っているニコチンなど、人間が依存してしまうドラッグのほとんどがドーパミンのレベルを上げてしまいます。体に良いことを何もしていないのに上げてしまうのです。ドラッグは体にも脳にも大きな悪影響があります。特に、長い期間とり続けると危険です。SNSにしてもドラッグにしても、脳が昔のまま進化していないために私たちは夢中になってしまうのです。

スマホを操作する女性の手元
写真=iStock.com/west
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