コロナ禍で自宅時間が増え、大人も子どももスマホやパソコン、ゲーム、SNSに費やす時間が増えているのではないでしょうか。『スマホ脳』で、スマホの脳への悪影響について書いた精神科医のアンデシュ・ハンセンさんが、脳にスマホの刺激を上回る満足感を与える方法を伝授します――。(第1回/全3回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『最強脳 「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

ディズニーのファンタジー映画「白雪姫」に登場する小人のフィギュア
写真=iStock.com/awiekupo
※写真はイメージです

いつもきげんが良い人と悪い人

白雪姫と七人のこびと』にハッピー(ごきげん)とグランピー(おこりんぼ)という名前のこびとが出てきますが、私たちの周りにもいつもごきげんな人もいれば怒りっぽい人もいます。こびとのハッピーのようにいつでもニコニコして人生を楽しんでいるように見える人もいますし、グランピーみたいな人も確かにいます。起きてすぐに重いため息をつき、夜寝る時まで頭上にずっしり重い雨雲がかかっているような人です。

ハッピーならサンドイッチを落としても、ほこりだけはらって口笛を吹きながらごきげんに食べてしまうでしょう(食べながら口笛を吹けるかどうかは別として)。しかしグランピーがサンドイッチを落としたりしようものなら、1日が台無しになってしまいます。

世の中には他にも、「ガミガミ屋」「ごきげん斜め」「冗談好き」「不きげん」「怖がり」「笑い上戸」など、色々な人がいます。他の人たちからそんな風に呼ばれるということは、名は体を表しているわけです。何も起きていない時のきげんや、何かが起きた時の反応も簡単に想像がつきます。

ではそういう人たちがいつでも「ごきげん」だったり「おこりんぼ」だったりするかと言うと、そういうわけではありません。グランピーにしても朝から晩まで怒っているわけではないでしょう。私たちはみな両方の性格を持ち合わせていて、それ以外にも様々な性格を持っています。そのバランスが人それぞれ違いますし、どういう組み合わせなのかも違ってきます。

出来事に影響されることももちろんあります。かわいがっていたペットが死んだら悲しくなりますし、大好きな人、例えばおじいちゃんに会えたらうれしくなります。それは「性格」とは別の「感情」です。だからグランピーがごきげんな時もあるし、ハッピーが泣くこともあるのです。

脳がくれる「ごほうび」

では悲しい時や幸せな時、私たちの脳の中では何が起きているのでしょうか。それが分かれば、自分で自分を少し幸せにすることが出来るかもしれません。

脳には「ごほうび」をくれるシステム(仕組み)があります。細胞と細胞の間でシグナルを送るための化学物質が何種類かあり、そのひとつが「ドーパミン」です。他にも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」「エンドルフィン」などの化学物質がありますが、複雑になり過ぎないように、今は「ドーパミン」の話だけにしておきます。

ドーパミンの仕事のひとつに、「何に注目し、集中すればいいのかを教えてくれる」というものがあります。好きなことをすると、例えばおいしい物を食べたり、友達と会ったりすると、ドーパミンの量が増えて幸せな気分になり、満足を感じます。つまり自分にとって良いことをすると、脳が「ごほうび」をくれるのです。

人間は食べなければ死んでしまいます。だから脳は、私たちが何かを食べる度にごほうび、つまりドーパミンを出してくれます。他の例もあげておくと、人類の歴史において、他の人たちと仲良く出来るかどうかは、生死を分けるような大切なことでした。だから人と仲良くしている時もドーパミンが出ます。私たちはドーパミンが大好きでいくらでもほしくなり、そのおかげで自分にとって良いことをしてしまうのです。

「いいね!」もドーパミンのもと

とはいえ、まったく無駄なことをやってしまうこともある……とも思いませんか? 例えば何時間もスマホをいじったりというようなことです。本当は他にやらなければいけないことがいくらでもあるというのに。しかし、これもドーパミンのせいなのです。SNSで「いいね!」がつく度に、小さなドーパミンのごほうびをもらえてしまうからです。

何万年も前に脳のごほうびシステムが出来上がった頃は、周りの人たちに好かれているかどうかが非常に大切でした。誰も1人では生きていけない時代だったからです。しかしその頃は、1時間に何百回も小さなドーパミンのごほうびをくれるスマホはありませんでした。私たちの脳は、スマホのような技術の進化についていけていないのです。ついていけていたら、スマホから手を離した時にドーパミンが出るようになっていたはずです。

ドラッグ(麻薬)も、昔の脳が想像もしていなかったような深刻な問題です。人をとりこにしてしまう様々な種類の薬物や、タバコに入っているニコチンなど、人間が依存してしまうドラッグのほとんどがドーパミンのレベルを上げてしまいます。体に良いことを何もしていないのに上げてしまうのです。ドラッグは体にも脳にも大きな悪影響があります。特に、長い期間とり続けると危険です。SNSにしてもドラッグにしても、脳が昔のまま進化していないために私たちは夢中になってしまうのです。

スマホを操作する女性の手元
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

SNSやドラッグ以外の「ごほうび」

では、体に悪くないドーパミンの出し方はないのでしょうか。

もちろんあります。体を動かせば良いのです。

運動(しっかり体を動かす運動)をした後にはドーパミンが出ます。ドーパミン以外にも、幸せを感じるエンドルフィンが出ます。エンドルフィンには痛み止めの作用もあるので、運動した後に出るのは好都合と言えます。ここで言っておきたいのは、運動の後にもらえるドーパミンの方が、スマホからもらえるよりずっと量が多いということです。「ごほうび」をもらえるようになるには、ある程度の期間、運動を続けなければいけませんが、そのおかげで筋肉や肺や心臓も強くなります。

ドーパミンは昔、ヒトが食べ物を探し、狩りをしていた頃の「ごほうび」だったのでしょう。食べ物を探したり、狩りをしたり、もっと良い住処すみかを探して移動したりするためには体を動かさなければなりません。そのため、脳はその人が運動すると「良いことをした!」とごほうびをくれるように進化したのです。そのあとまたすぐに新しい食べ物や住処を探す必要があったからです。運動は確かに体にも良いのですが、脳にとっては別の意味で「良いこと」だったのです。

そして、運動をすればするほど脳や体への効果が大きくなります。運動を続けていくうちに、運動をしていない時にも幸せな気分でいられるようになるのです。

昨日より少し幸せな気分に

では、ただ外に出て運動しさえすれば、誰でもこびとのハッピーのようにごきげんな気分になれるのでしょうか。

そういうわけではありません。

運動を始めたからといって、朝はうきうきとベッドから飛び出し、つらいことがあっても1日中鼻歌を歌いながらごきげんに過ごせるというわけではないのです。その人の性格は前と同じままで、悲しいことが起きればやはり泣くでしょう。

でも全体的には、昨日よりも少し幸せな気分になることが出来ます。悪くない話ですよね。

逆に、こういう気分になることはありませんか? 元々そんな性格ではないし、何かつらいことがあったわけでもないのに、ゆううつな気分になる。特に理由はないのに、何となく気持ちが暗くなる。

こうした状態が長い間続くことを「うつ」と呼びます。大人や若者に多いのですが、子供でもうつになることがあります。

うつになると、何もかも最悪で無意味だとしか思えず、毎日がどんどんつらくなります。そうすると引きこもってしまい、それまで好きだったことも、やっても意味がないように思えて、やらなくなってしまいます。楽しいことをしないでいると、幸せな気分に戻れるチャンスはますます減ってしまいます。

まずは誰かに相談してみる

しかし、うつにも運動やエクササイズが非常に良く効くことがはっきりと分かっています。とはいえ、うつになった時はなかなか運動したい気持ちにはならないかもしれません。

最近ずっと気分がしずんだままで、運動もしたくないと感じる人は、誰か信用出来る相手にそのことを話してみて下さい。うつに対するサポートは色々ありますが、自分でサポートを受けに行く気力はないことも多いでしょう。だからまずは誰かに相談してみるのが良いと思います。

ドクターの処方箋

週に3回、最低30分の運動。その間ずっと心臓がドキドキして、なるべく何度も息が上がるように。

やり方

ある程度の時間、脈拍を上げておくことが重要です。つまり心臓が速く打っていなければいけません。

アンデシュ・ハンセン『最強脳 「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業』(新潮新書)

アンデシュ・ハンセン『最強脳 「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業』(新潮新書)

すでにやっていることから始めてみましょう。やった方がいいと思っていることでもよいでしょう。バスや電車で学校に行く代わりに、出来るだけ歩いて行くなどです。すでに歩いている場合は、速足で歩いてみてはどうでしょう。

家から学校まで歩いて15分なら、週に2、3日は30分かかるように回り道してみるのも手です。心臓がドキドキするように、出来るだけ速く歩いて下さい。

スピードは息が上がるくらいまで上げてみましょう。そのスピードのまま次の街灯(もしくは少し先に見えている物)まで進んで下さい。そこまでたどり着いたらスピードをゆるめましょう。こうやって目的地までスピードを速めたりゆるめたりを繰り返して下さい。

同じことをジョギングや自転車、水泳、スキーやローラースケートでも出来ます。通学とは関係なくても大丈夫です。大切なのは、とにかく心臓がドキドキすることと、息が上がることなのです。

30分間脈拍が上がっていればいい

どんな運動をするかは、自分で考えてもかまいません。友達と考えてみるのも楽しいかもしれませんね。ルールはひとつだけ——30分間ずっと脈拍が上がっていること。そして時々、息が上がるくらいまでがんばってみること。

水泳をしたり、バスケやフットサルをしたり、森の中で木から木へと走ったり、自転車やキックボードで鬼ごっこしたりするのも良いかもしれません(ただし車の来ない場所で!)。ひざまである水や雪の中でラグビーをするのはどうでしょう? 楽しいことなら何でもいいのです。

ひとつおすすめをあげるとしたら、ノンストップサッカーです。試合の間は立ち止まるのは禁止、走っていない時でもジョギングをしていなくてはいけません。ボールがラインを割っている間もです。その場で立ったままのジョギングも禁止にして、ボールが来そうな場所にどんどん移動して下さい。これでサッカーも上手くなりそうですね。