SDGs時代を予見する理念ビジネス

アニータが掲げる企業理念は、従業員の士気を高める効果もあった。会社の方針に共感し、社会運動の活動拠点にいること、自分の仕事が問題解決の一助になっていることに誇りをもち、熱狂する理想家肌の従業員も少なくなかった。それは顧客の道徳心を満たすブランド力になるだけではなく、社内の結束にも役立ったのだ。もちろん当時の従業員の中には商品よりも目立つ政治色や、キャンペーンへの対応で仕事が増えることなどで、反発する者も多かった。そういう場合も切り捨てず、意見箱のような全社員の意見を吸い上げ、会社との対話の機会をもうける工夫でコミュニケーションを続け、理解と共感を得る努力を続けた。

写真提供=THE BODY SHOP JAPAN

こうしたビジネスモデルは、サステナブル企業の草分けであるグラミン銀行、パタゴニア、サファリコム(※1)などと並び、「ビジネスで社会問題を解決する」ソーシャルビジネスの成功例として今も後進に影響を与えている。

地球の状況はピンチだが、SDGsが提起する課題はビジネスチャンスの宝庫にもなりうる。「何としても解決したい社会問題」を事業目的に設定したビジネスの突破力に多くの期待やESGマネーが集まっていることはいうまでもない。長らく異端だった彼らのやり方がようやく世界的な潮流になりつつある。

 

※1)グラミン銀行:バングラディシュの農村部の貧困層の自立支援のマイクロクレジットを行う
パタゴニア:社会活動で有名なアウトドアブランド
サファリコム:ケニアを代表する通信企業

アニータは著書のなかで“腹を立てるという感情は、パワーと創造力の源だ”と言っている。

どんなリーダーも1人では何もできない。多くの人が抱く社会問題への憤りや疑問に共感し、ビジネスを通して解決していったからこそ、広く支持が集まり、世の中を動かす力になった。彼女の正義感と徹底した利他主義は、生前の言葉からもうかがい知れる。

“裕福なビジネスウーマンとして、魅惑的で快適な生活に身をゆだねるのは簡単だ。だが、何かを求めて闘うことのない生活なんて死んでいるようなものだ。(中略)子供たちには、私が死んだらこれまでに稼いだすべての財産は、1ペンス残らず人権活動家たちに譲ると言い残してある。”

言葉どおり2007年に突然この世を去った彼女の莫大な遺産は、全額慈善事業と税金に費やされたという。理想主義と批判されながらも信念を貫いたカリスマ企業家の遺志は、事業を志す女性たちの起業魂に受け継がれ、未来に還元されていくだろう。

※引用・参考文献リスト
BODY AND SOUL』アニータ・ロディック著(The Japan Times刊)
BUSINESS AS UNUSUAL ザボディショップの、みんなが幸せになるビジネス。』アニータ・ロディック著(トランスワールドジャパン)
お茶の水女子大学特別講義 世界を変えた10人の女性』池上彰著(文芸春秋社)
世界を変えた6人の企業家 ザボディショップ アニータ・ロディック』ポール・ブラウン著(岩崎書店)

アニータ・ロディック(1942-2007年)
1942年、英国のリトルハンプトンで生まれる。両親はイタリア系移民。英語と歴史の教師をした後、世界中を旅行。帰国後ゴードン・ロディック氏と結婚。ホテル、レストランの経営を経て、1976年、自然原料をベースにした化粧品を製造・販売する「ザボディショップ」1号店をイギリスブライトンで開店。ユニークな経営方針とフランチャイズ方式で世界70カ国以上に約3000店舗以上を展開(2021年11月現在)。ビジネス・ウーマン・オブ・ザ・イヤー(1984)をはじめ、OBE大英帝国勲章(1988)、国連環境賞(1997)、DBE女勲爵士(2003)等数々の受賞歴をもつ。
モトカワ マリコ(もとかわ・まりこ)