スキンケアブランドの熱血社会派キャンペーン

ビジネスで成功を収めるとすぐ、アニータは利益を社会に還元する方法を模索する。10代から人権運動や環境保護などのデモに参加し、活動家を英雄視していた彼女は、会社経営以上に社会活動に意義を見出していたのだ。環境保護団体や人権保護団体にアプローチし、資金提供や共同キャンペーンを実施しノウハウや人脈を構築した。

写真提供=THE BODY SHOP JAPAN

“私たちのやっていることを「ゲリラマーケティング」と呼びたい。注意を惹くために、従来とは違う低コストの戦略を使うことだ。例えば店舗を人権活動のアクション・ステーションにしたりする。(中略)商品を政治的・社会的なメッセージとからめて販売することが大切だと考えている”

写真提供=THE BODY SHOP JAPAN

活動団体との共同キャンペーンでは店舗の壁に環境保護や人権問題を訴えるポスターを貼り、町を走る社用トラックにも社会的メッセージをプリントした。この広報戦略は他社を寄せつけない独特なブランディングとして物議をかもした。闘う起業家としてのアニータの仕事は、アフリカの民族運動を支援して敵対する大企業や政府に抗議したり、ブラジルの熱帯雨林保護を訴えたりと本格化していく。必ずしも成果があったものばかりではないが、世界に顧客をもつグローバルブランドがトラブルの渦中にいる当事者たちと共に声をあげる活動は世間に大きなインパクトを与えた。同時にブランドのファンを問題意識に巻き込み、エシカルな消費活動を促す流れにもなっていった。

貧困地域に入りこみ、当事者と一緒に考える超フェアな取引

貧困撲滅のための「フェアトレード」にも早くから積極的だった。見本市でサプライヤーと交渉するのではなく、環境保護や人権団体のガイドで、アニータや担当社員が直接世界の貧困地域に出向き、当事者と丁寧な対話を続けながら取引をすすめるという、旅慣れた彼女ならではの前例のないやり方だった。経済的な自立には時間がかかり、長期に関わらないと効果が薄いと考えたからだ。貧困に苦しむガーナの女性たちからシアバターを買い、経済的な自立に力を貸すなど、主力商品の原料を貧困地域から調達していく。

“道徳的なビジネス決定はなぜうまくいくのか? それは消費者が、製品を購入することは道徳的選択でもあると理解しているからだ”

彼女の言葉どおり、フェアトレードを通して自力で貧困から立ち上がろうとする生産者の物語は、商品のストーリーとして語られ、ブランドとしての訴求力をさらに強めていった。