この先「シングルインカム」は難しい

ママの時代と違って、女性と男性をとりまく環境が大きく変わりました。ですから、いまあなたのママやパパが送れているような暮らしぶりは、これから先むずかしくなるだろうと考えてください。いまではダブルインカム(夫婦共働き)の世帯がシングルインカム(世帯主単独収入)の世帯を上回っています。あなたの家庭は、シングルインカムの少数派に属しています。ダブルインカムを日本語で「共稼ぎ」と言いますが、最近ではシングルインカムを「片稼ぎ」と呼ぶようになってきました。

上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)
上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)

今の日本では、あなたのパパと同じように、ゆとりのある暮らしを家族に保証できるだけの給料をもらえる男性が激減しました。たいがいの女性は自分が働かなくてもゆとりのある家計を維持するために、将来の夫に年収600万円以上を期待しますが、転職サイトdodaのデータ(2019年)によれば、この年収水準に達するのは20代で3.3%、30代で17.0%、しかもこれらの人々は既に結婚している可能性が高いので、未婚の高所得者に出会う確率は低くなる、つまり超激戦区なんです。

平均賃金は、20代男性で367万円、女性で319万円、それなら夫婦で働けば600万円を越えます。共働きなら家計のゆとりがまったく違ってきますから、あなたの世代の男の子たちは、将来の妻に働いてもらいたい、と思っています。ですから、専業主婦になりたいと思う女の子より、働いてくれる女の子の方が妻として魅力的だと考える男性が増えてきています。一生ひとりのオトナの女を養いつづけるのは重荷だと、男性たちが思うようになってきたのでしょう。

チャンスは大きく広がっている

他方で、女の子の活躍するチャンスは、あなたのママの時代とはくらべものにならないくらい、拡大しました。女にも働いてもらいたいと思うのは、未来の夫たちばかりでなく、企業も社会もそう期待しています。そうでないともう社会はまわっていかないと、ようやくわかってきたからです。

たくさんの選択肢を前にして、これからどんな人生を送ろうか、とワクワクするのが10代です。その年齢で、自分の選択肢を狭める必要はありません。「ママの時代にはなかった選択肢が、わたしにはあるのよ」とママに言ってあげましょう。ママがあなたをほんとうに愛しているなら、たとえママのような人生を選ばなくても、あなたの選択を心から応援してくれるでしょう。

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者

1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。