他人から見たキャリア戦略は役に立たない

――大学の正規教員という恵まれた立場をあっさりと手放したことに対して、周囲はどんな反応でしたか?

『馬疫』と茜さん
馬疫』を上梓した茜灯里さん。写真=本人提供

【茜】もちろん止められました。「そっちじゃない、帰ってこい」と(笑)。キャリア戦略を考えれば、道の踏み外しもいいところ。「このままいれば准教授になれたのに」、そんなことも言われました。

――でもご本人に「道を踏み外した」感覚はまったくなかったのですよね。

【茜】そのとき一番興味があるのが馬だった。だから究めるべきだと思った。それだけなんです。これまでも、大学を受験し直したり、大手新聞社を辞めて大学院に進んだりなど、周囲が驚く進路を選ぶことは多々ありました。でも「愛する科学の面白さを伝える」のが私の生き方の根幹。獣医師になることは、その根と幹に栄養を注ぐことだとわかっていたので、まったく迷いはありませんでした。

逆算して新人賞を狙う

――獣医師免許を取得したのち、なんと小説を執筆。2作目となる『馬疫』が「第24回日本ミステリー文学大賞新人賞」を受賞します。

【茜】この作品を執筆するにあたっては、徹底的なリサーチを行いました。私には商業作家として身を立てたいという目標があります。出版社から定期的に単行本を出版し、それで暮らしていくようなスタイルです。そのためにどうしたらいいのかを逆算して、まず新人賞を狙うことにしました。そこで多く賞を設けているジャンルを調べると、それがミステリーだったのです。今後どんな作品を手がけるにしても、“魅力的な謎”というのは必要不可欠。どんな分野でも生かせると考えてミステリーに絞り、さらに研究者であり、獣医師である自分の特性が出せる、そんな作品に仕上げたのです。