やっとつかんだ達成感

「『Oh My God! これで使えるわ』と叫んだの。Wow! 夢が叶った瞬間でした。ただただ、驚くばかり。でも同時に『オッケー、これはとてもとても重要な発見だわ!』とも思いました」
「一方で、すぐには100%まで信じられなくて、実際に実験を何度も繰り返しました。何か間違えたかもしれないと思って。でも、何度繰り返しても、タンパク質は生成されました。大丈夫だとわかって、われわれはとても興奮しました。お互いにデータを見て、wow……ahって声を上げました」(カリコ氏)

陽光に向かって卒業を祝う学生のシルエット
写真=iStock.com/Tomwang112
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「カティ(カリコ氏)と私は、初めからこのテーマに挑み、決して諦めなかった。実験の技術が下手だから研究をやめるべきだとは一度も思わなかったけれど、すべての過程が私たちにとって戦いだった。この研究に興味をもってもらうために、人、企業、製薬会社を説得し続けた。時間はかかったけれど、やっと、やっと達成できたんだ」(ワイズマン氏)

それでも世の中には認めてもらえない

2005年、カリコ氏はワイズマン氏とともに、mRNAが人体に引き起こす拒絶反応を抑えるこの画期的な手法を、科学雑誌『Immunity』に発表した。

2006年には、ふたりでRNARxというスタートアップ会社を設立。これに対してNIH(米国国立衛生研究所)から約100万ドルのビジネス助成金(中小企業技術移転プログラム)を得て、研究を続けた。カリコ氏は「最初で最後の助成金」だったと言う。

画期的な発見にもかかわらず、大学では相変わらず冷遇され続けたし、ふたりの発表した論文が学会で注目されることもなかった。

「会議などでプレゼンをしていても、『君の上司は誰か』と聞いてきたりする人がいた。私が訛りのある英語で話す女性だから、『裏で彼女にアドバイスをする人がいるに違いない』と勝手に推測されているようでした。なかなかmRNAの本当の価値を認めてもらえなかったんです」(カリコ氏)