伸びる人は戦争で勝つことにこだわり、凡人は戦闘で勝つことにこだわる
戦争では、相手の攻撃を受けて自陣営の態勢が崩れたとき、立て直しのため一時撤退という判断がなされることがあります。
仮に局地戦で負けても、兵力をより重要な戦闘に再配置するとか、作戦を練り直して再攻撃するなど、「戦争に勝つ」という最終目的のために作戦本部が戦局全体を見据えた上で決断します。
そしてこれは仕事でも同じで、自分の提案を通すために、あるいはより大きな取引につなげるために、あえてこの取引では相手の条件を飲んでおくとか、今回の議論ではあえて負けておくという判断もあるでしょう。
つまり、自分の本当の狙いや目的を達成するには、「一時撤退」「局地戦で負けておく」も戦略のひとつだということです。
しかし凡人はこういう判断が苦手です。プライドが邪魔し、感情で判断するからです。
自分よりも年下の指示に従うのは、自分が小物のような感じがして嫌だ。相手の条件を飲むのはくやしい。議論に負けるのは腹立たしい。自分から頭を下げるのはプライドが許さない。といった感情に支配されるからです。
予約のない客がやってきたら
たとえばホテルのフロントの仕事。
予約リストにない客がやってきたとします。フロントは当然「お客様のお名前ではご予約は承っておりませんが……」と答えるでしょう。
しかしその客も「いや、予約したはずだ」と主張します。
それでもう一度予約台帳を見なおしても、やはりない。「やはり承っていないようですが……」と答えるしかないようにも思えます。
するとその客は「ほら、このメールを見てよ……あっ、月を間違えてた! スミマセン……」
つまり間違えていたのは客だったのですが、優秀なフロントは満室でもなければこんな対応をすることはありません。
「申し訳ございません、私どもの手違いかもしれません。すぐにお部屋をご用意させていただきますので、少々お待ちください」
なぜなら、ホテルの目的は宿泊客を増やすこと、リピーターを増やすことのはずだからです。
ここで「ふふん、私が間違えるはずはないだろう」などと自分の自尊心を優先させ、どちらが正しいかを議論することに意味はないことがおわかりいただけると思います。
にもかかわらず、「自分は正しい、間違っているのは相手」という態度を押し通せば、自分の正しさを証明した代償に、客を一人失うことになります。
つまり、予約のやりとりという局地戦ではこちらの言い分を引っ込めて一時退却し、この客の部屋を手配することで追加の売上を取る、という戦争に勝つわけです。
感情を排し、「今この局面で、自分は負けておくべきか、あるいは勝つべきか」を冷静に判断する度量をつけることもまあ、目的達成力の強さにつながるのではないでしょうか。