両立なんてできるわけがない
これまでの経験や子育てをつづった著書や講演会は幅広い層から反響を呼び、最近は「決断力」に関する相談が目立つ。グローバル化や雇用環境の変化を受け、転職など一歩踏み出すヒントを求める人が多いという。
20代、30代女性からの仕事と育児の両立に関する悩みも引き続き相次いでいる。
「子育てとキャリアアップはそもそも両立なんてできるわけがない。できてもほんの一部。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツは両立していたと思います? 私社長やっていてね、こんなの子育て中にはできないですよ」。
30代、40代の女性が管理職になることを断るのは、両立できないと思っているから。一方、男性が引き受けられるのは、子育てを放棄しているから。本気で女性の管理職を増やしたいのであれば、年齢制限やタイムリミットをつけるべきではない。
「結婚して子どもを産んで、仕事して。3つともやらないと自分が落ちこぼれると今の女性は思っているんですよね。私が言いたいのは、育児に専念したいんだったら育児に専念して、それが終わってから復職しても十分間に合うということ。人生100年時代の今、『子育て後に仕事に打ち込む』という、もう一つのワークライフバランスがあってもいいはずです」。
「キャリア」という時、それは必ずしも元いた場所に戻ることではない。何をキャリアと考えるかは自分次第。自分で人生のかじ取りをし、新しいことを学び、好きな仕事と巡り合えること——。それが薄井さんにとってのキャリアだ。
強みは「いつでもまっさらになれること」
薄井さんの強みは、いつでもまっさらになれること。電話受付のアルバイトで、時給1300円で働いていたのはわずか10年前。自分が頑張れることはまだまだ覚えていて、勝負もできる。
「元々何もなかったから、ある意味怖さを知らないわけです。最近はレジ打ちをしていましたし、新しい技術も学べる。それが全部自信につながっているんです」。
バッグパックの中身を空にして、薄井さんはまた新たなキャリアの旅に出る。
文=藤岡敦子
1959年フィリピン生まれ。1980年、国費外国人留学生として来日。1985年東京外国語大学卒業、貿易会社入社。1986年日本人(外務省職員)と結婚、リベリアに赴任。1988年帰国、広告代理店就職。1989年娘を出産し退職、専業主婦に。2007年、48歳でタイ・バンコクのインターナショナルスクールのカフェテリアでパートを始め、3カ月で管理職に。2011年帰国、会員制クラブでの電話受付アルバイトを経て、2013年ANAインターコンチネンタルホテル東京。勤続3年で営業開発担当副支配人就任。シャングリ・ラ東京に勤務後、2018年日本コカ・コーラ社に入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任。2021年2月にオリンピック延期により失職。同年5月から現職。著書に『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたか』等。キャリア再構築を目指す人々のための講座も開催している。